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これでも景気回復か?財務省が政府日銀の景気判断と矛盾する人件費減少データを公表=斎藤満

政府の景気判断は現在も「緩やかに回復」としています。しかし、最近の指標のなかにこれを否定するものがあり、また経済のいくつかの「パターン」が日本はすでに景気後退に入っている可能性を示唆しています。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2019年9月6日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

政府が堅調だという非製造業、実際は3つの要素で数字をかさ上げ

月例、輸出は弱いが緩やかな回復続く

政府の景気判断を8月の「月例経済報告』でみてみましょう。

ここでは「景気は輸出を中心に弱さが続いているものの、緩やかに回復している」と判断。先行きについても「雇用所得環境の改善が続く中、各種政策効果もあって、緩やかな回復が続くことが期待される」としています。

日銀も同様で、「所得から支出への前向きな循環が働いている」ことを理由に挙げています。

しかし、最近の指標のなかにこれを否定するものがあり、また経済のいくつかの「パターン」が日本はすでに景気後退に入っている可能性を示唆しています。

財務省データの謀反

まず、政府のいう「雇用所得環境の改善が続く」という認識、日銀の「所得から支出への前向きな循環が働いている」との認識を、なんと財務省の「法人企業統計」が否定することになりました。

今年4-6月の企業が支払った人件費は、この3か月間で44.4兆円。これは前年同期に比べて0.7%の減少となっています。しかもこれは名目で、物価上昇分や雇用の頭数が増えてもこの結果です。

これまでの推移を見ると、昨年7-9月には4%強の増加で、以降、10-12が3.1%、今年1-3月が1.6%増と減速していて、4-6月はついにマイナスとなったものです。

厚生労働省の統計で雇用や賃金が増えたと言っても、支払い元である企業の実際に支払った人件費が減少してきたことの意味は重いものがあります。

これを見る限り、雇用所得環境は明らかに悪化し、前向きな循環も出発点で破綻しています。

Next: 悪化する世界貿易、日本はそれよりもさらに大きく悪化していく…



輸出の弱さは一時的ではない

次に輸出ですが、政府は輸出の弱さを過小評価しています。

世界経済が今年後半から回復するとのIMF(国際通貨基金)の見通しを過信し、輸出はいずれ回復するとの前提で、今の弱さも一時的で、景気全体に影響するほどではないとしています。

しかし、日本の輸出を世界貿易と照らしてみると、別の判断になります。

これまでのパターンから見ると、日本の輸出は世界貿易が回復拡大するときには世界のペースを上回って拡大しますが、逆に世界貿易が減速縮小する中では、それ以上に落ち込み、円安でも効果がありません。

つまり、世界貿易の変動がさらに増幅されて日本の輸出に跳ね返ります。

そして今は世界貿易が減速どころか、今年になって減少する局面で、リーマン危機以来の弱い状況です。

これまでのパターンに照らせば、世界貿易の弱さ以上に日本の輸出が弱く出る状況にあります。そして、その世界貿易ですが、この4-6月までですでに3四半期連続の減少で、WTO(世界貿易機関)の予測指数では、7-9月はさらに弱くなると言います。

日本の輸出が回復する前提がまだ整っていません。

この輸出の減少が、生産の圧迫のみならず、製造業の設備投資減少につながるようになったことが、先の「法人企業統計」でも確認されています。

景気に敏感な製造業から悪化

つぎに、景気の循環パターンをみると、景気の先導役を果たすのが製造業で、景気が良くなる時にはまず製造業が回復し、悪化するときも製造業から悪化するパターンが見られます。

製造業と非製造業の景気をそれぞれに表す指標に、PMIなどがありますが、財務省の「法人企業統計」でも十分これが示されています。

この各種データのうち、例えば企業の経常利益を見ると、製造業の利益はすでに昨年7-9月から前年比減益となり、以来4四半期連続の減益となっています。

足元では28%もの大幅減益です。

Next: 政府判断では堅調な非製造業、実際は3つの要素で数字がかさ上げされている



政府判断では堅調な非製造業、しかし…

これに対し、「非製造業が堅調で、全体の利益は高水準を維持」というのが政府の判断になっています。

しかし、ここには3つの要素が数字をかさ上げしていて、実際には非製造業もさほど良くなく、全体の利益は見た目ほどよくありません。

<第1の数字かさ上げ:数字が弱い「金融・保険」を除いている>

法人企業統計の利益には、通常「金融・保険を除く」ものが使われています。しかし、日銀の異常なマイナス金利政策の中で金融部門が疲弊し、これを含んだ数字はそれだけ弱くなります。

例えば、金融・保険を除いた経常利益は昨年7-9月は全体で2.2%の増益でしたが、金融・保険を含めると7-9月も0.8%の減益となり、今年1-3月も全体では10.3%の増益ですが、金融・保険を含めると8.2%の増益に減速します。

<第2の数字かさ上げ:「持ち株会社」の利益を二重計上>

さらに、この統計には「持ち株会社」の利益が二重計上されている分、利益がかさ上げされています。

各企業の利益から配当分が持ち株会社に回り、これが持ち株会社の利益になっているからです。この「ダブり」分が昨年度で7.5兆円あったといいます。そして今年1-3月の純粋持ち株会社の増益率はなんと250%に上り、これを除くと全体の増益分が消えてしまいます

<第3の数字かさ上げ:ソフトバンクGの中国株売却益が含まれている>

さらに3番目として、この4-6月の利益44.4兆円の中には、ソフトバンク・グループの1.2兆円の利益が入っていて、全体をかさ上げしています。

この利益の多くは中国アリババ株の売却益で、さらにサウジ政府と設立したビジョン・ファンドの利益が大きく貢献しています。

これを除くと、非製造業の利益も2桁のマイナスとなります。

これら3つの要因を考慮すると、製造業が先行して悪化し、これをカバーしていたはずの非製造業もカバーしきれなくなり、彼らの利益も悪化して全体の利益が縮小する形になってきたと言えます。

Next: 世界規模で製造業発の景気悪化が進行中、日本も景気後退局面に



世界規模で製造業発の景気悪化が進行中

これは政府の認識と異なり、製造業の悪さが全体に波及してきたわけで、全体の景気がすでに後退局面に入っている可能性を示唆しています。

世界貿易の縮小の中で製造業が苦境に陥っているのは日本だけではなく、中国欧州、そしてついに米国もこれに巻き込まれるようになりました。

まさに世界規模の製造業発の景気悪化が進行していることになります。

日本政府の楽観的な認識には大いなる疑問を感じます。

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2019年9月配信分
  • 政府日銀の景気判断に異議あり!(9/6)
  • 目に見えない中国経済の苦境(9/4)
  • 世界景気の後退を示唆する貿易の縮小(9/2)

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マンさんの経済あらかると』(2019年9月6日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による

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