キャッシュレス還元事業への参加で、最後まで動きが読めなかったのが交通系電子マネーでした。Suicaほか各社が参加表明しましたが、内容はいまいちです。(『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』岩田昭男)
※タイトル、見出し、太字はMONEY VOICE編集部による(有料メルマガ『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』2019年10月1日号「交通系電子マネー参入・足りないシンプリシティの思想」より)
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プロフィール:岩田昭男(いわたあきお)
消費生活評論家。1952年生まれ。早稲田大学卒業。月刊誌記者などを経て独立。クレジットカード研究歴30年。電子マネー、デビットカード、共通ポイントなどにも詳しい。著書に「Suica一人勝ちの秘密」「信用力格差社会」「O2Oの衝撃」など。
キャッシュレスは進まない?複雑すぎる還元策に音を上げる庶民達
なかなか動かなかった「電子マネー」陣営
「キャッシュレス・消費者還元事業」への参加で、最後まで読めなかったのが電子マネー陣営。なかでも交通系電子マネーの動きでした。
最初に、Suicaほか交通系電子マネー各社の発行枚数をおさらいします。
<交通系電子マネー発行枚数(2019年8月)>
※●印はキャッシュレス還元事業に参加
第1位:Suica(スイカ)JR東日本 7,616万枚 ●
第2位:PASMO(パスモ)関東の私鉄 3,844万枚 ●
第3位:ICOCA(イコカ)JR西日本 2,148万枚 ●
第4位:manaca(マナカ)名鉄など 680万枚 ●
第5位:nimoca(ニモカ)西鉄 399万枚 ●
第6位:PiTaPa(ピタパ)関西私鉄 332万枚 ●
第7位:TOICA(トイカ)JR東海 291万枚
第8位:SUGOCA(スゴカ)JR九州 289万枚 ●
第9位:KITACA(キタカ)JR北海道 160万枚
第10位:はやかけん(福岡市交通局) 133万枚
ポイント還元策に一番乗りしたのはSuica(スイカ)
政府は、電子マネーの還元上限を最大チャージ額の5%分と規定しました。
JR東日本のSuica(スイカ)なら2万円までチャージできますから、その5%の1,000円が還元上限となります。少額決済が多い交通系電子マネーでは、この金額で妥当といえます。
その発表を受けて、9月初旬に一番に名乗りをあげたのが、Suicaでした。他の交通系電子マネー事業者のPASMO(パスモ)、ICOCA(イコカ)、TOICA(トイカ)、SUGOCA(スゴカ)などは還元事業への登録はしたものの、目立った動きはみせませんでした。
Suicaは乗り物ポイントまで用意する周到さ
一方のSuicaは、還元事業の加盟店(中小店)で買い物すると、5%のJRE POINTが付くというスキームで独走体制を整えました(筆者注:加盟店の目印は「キャッシュレス・消費者還元事業」マーク+Suicaマーク+JRE POINTマークの付いたステッカーです)。
さらに、10月1日から、Suicaは乗車ポイントを始めると宣言しました(還元事業とは別のサービス)。こちらは電車に乗るたびに最大2%のポイント(JRE POINT)を付けるというのですから、驚きました(筆者注:乗車ポイントを受け取るにはJRE POINT WEBサイトへの登録が必要で、モバイルSuicaは2%、Suicaカードは0.5%のポイント付与となっています。ただし例外として、無記名Suicaや記念SuicaはJRE POINT WEBサイトに登録できないため、乗車ポイントは付きません。詳細はJRE POINT WEBサイトをご確認ください)。
これでSuicaはますます便利・お得になって、他の追随を許さなくなったようにみえました。
Next: 危機感を持ったPASMO&関西勢が動いた。損しないカードはどれ?
危機感を持ったPASMO(パスモ)が動く
その動きは、首都圏のサラリーマン・OLのうち、PASMO(首都圏の私鉄事業者が発行する交通系電子マネー)の利用者たちを直撃しました。続々とSuicaに乗り換え始めたからです。
Suicaでも首都圏の私鉄とJRの両方に乗れるので、無理にPASMOにこだわる必要はないわけです。
「同じ乗るならポイントがたくさん貯まる方がいいから」(40代サラリーマン)という判断でした。
それを知ったPASMO陣営は、焦ったようです。油断していたら置いていかれると思ったのかもしれません。予定していた「キャッシュレス・消費者還元事業」のスタートを早めました。
PASMO陣営が準備に時間がかかったのは、関東圏の鉄道事業者27社、バス事業者33社の大所帯で、何をするにもまとまらないためです。
モバイルPASMO(スマホにPASMOを入れて使える機能)が未だに登場しないのは、このためだともいわれています。
PASMOに続いて関西勢が動いた
ところが、9月17日になって突然のようにPASMOのホームページに還元事業参加の知らせがでました。これには、みなが驚きました。「いよいよやる気なんだ」と、私もそう思って、PASMOの動きを取材しようとしました。
すると、すぐにICOCA(イコカ)も参加するようだという噂が流れました。ICOCAはJR西日本の交通系電子マネーでした。Suicaほど普及していませんが、スペックはSuicaとほとんど同じなので便利に使えます。
そのICOCAが参加するとなれば、「ウチも」というので、今度は同じ関西の私鉄のPiTaPa(ピタパ)がサービス参入を発表しました。
PiTaPaは大阪の地下鉄や阪急、阪神といった私鉄で使うことができますが、ここまで手間取ったのも理由があります。他の交通系電子マネーとの違いを出すために、特にSuicaやPASMOとの違いを出すために、「入会審査」を設けるなど、独自の後払い方式を採用していましたから、仕組みが複雑なのです。それもあって時間がかかったようです。
Next: ポイント発行企業が有利になる図式。さらに名古屋にも動きが出てきた
さらに名古屋にも動きが出てきた
そうする間に、名古屋地区からはmanaca(マナカ)が出てきました。これは名鉄の交通系電子マネーですが、ポイントサービスのついたエムアイシー発行のものと、ポイントサービスのない名古屋交通開発機構発行の2方式がありました。参加を表明したのは、ポイントサービスのついたエムアイシーの方でした。
また、同じ名古屋地区のJR東海のTOICA(トイカ)は、還元事業者に登録はしていましたが、現場でポイントサービスを行っていないために、今回は見送りになったようです。
九州については、JR九州のSUGOCA(スゴカ)が手を挙げ、西鉄のnimoca(ニモカ)も参加を表明しました。一方で福岡市交通局のはやかけんは参加しませんでした。
また北海道のJRキタカも参加を辞退しています(こうした動きは9月20日になってやっとはっきりしたのです)。
ポイント発行企業が有利になる図式
私たちが何気なく利用しているポイントサービスですが、その有無が、今度の還元事業では大きな影響を企業に与えているといえるでしょう。
ポイントを展開していた企業が還元事業をすんなり受け入れてお得を取り、ポイントに消極的だった企業は、何もできず、還元事業への参加を見送らざるをえませんでした。
その結果、manacaの一部、TOICA、はやかけん、KITACAの4社は、残念ながら参加することができませんでした。
それでも、東京・名古屋・大阪の大都市圏で一定規模以上の業者が参加できたので、多くの人がこのポイント還元の恩恵を享受することができました。
しかし、全国の利用者の側からいえば、今回不参加だった事業者にこそ、国は援助の手をさしのべて欲しかったと思います(国はある程度の資金を用意したといいますが、時間・予算的な問題で4社は参加を断念したと言います。残念なことです)。
交通系電子マネーの参加で急速に進むキャッシュレス
しかし、わずか15日間で全国の主な交通電子マネーが参加表明したのは驚くべきことでした。
キャッシュレスといっても、これまではQRコード決済業者中心で、キャンペーンで引っ張るしかなかったのですが、毎日使う交通系電子マネーの本格参戦で、やっと地に足がついた「リアル感」のあるサービスになるのではないかと期待します。
キャッシュレスについてはそういう意味では、追い風が吹き出したといえるでしょう。
ただ問題もあります。5%の還元をする中小店の数が少な過ぎることです。全国には200万店の対象店があります。そのうち直近では50万店が加盟店として手を挙げただけというのが現状です。
これでは先が思いやられます。
Next: これではキャッシュレスは進まない?複雑すぎる還元策に音を上げる庶民たち
複雑すぎる還元策に音を上げる庶民たち
また、実際にキャッシュレス還元の幕が開いてみると、軽減税率やキャッシュレス還元に際して何通りもの還元パターンがあって、利用者の多くが戸惑っています。
キャッシュレス決済に徹するなら、もっとシンプルに分かりやすいルールにしないと、誰もついてこないでしょう。
いきなり高度なスマホ決済を推奨するのではなく、最初は板カード(普通のプラスチックカード)で、キャッシュレスを楽しめるような仕掛けが必要なのではないでしょうか。
シンプルさとやさしさをもって進めないと、なかなか広がらないと思います。
Suicaの難しさは尋常ではない
一番人気のSuicaだって、現状のままであれば失速しかねません。うかうかできませんよ。
店でポイントが貯まるようにするには、JRE POINTサイトに行って、手続きをしなければなりません。これが意外にやっかいで、何箇所も関所を通るような体験をしますが、ここを通過しないとポイントをもらうことができないのです。
それにもらったポイントも翌日反映なので、最初は、レジ前では、ポイントが付いたのかどうかが分からず不安でした。
この辺をもっと改善してもらわないと、例えば、カードを持てばすぐにポイントが貯まるようにしてくれないと、いくら便利でも誰も使わなくなると思います。とくに高齢者は、敬遠して二度とキャッシュレスを使わなくなるでしょう。
いよいよ始まったキャッシュレス決済ですが、難問山積のスタートになったといえます。
Next: 交通系電子マネーの成功のカギは「どこまで手続きをシンプルにできるか」
成功のカギは「どこまで手続きをシンプルにできるか」
再度、冒頭で紹介した「発行枚数」の表を見ていただくと分かりますが、今回参加を表明した事業者は発行枚数の多さにほぼ比例しているところが注目です。
<交通系電子マネー発行枚数(2019年8月)>
※●印はキャッシュレス還元事業に参加
第1位:Suica(スイカ)JR東日本 7,616万枚 ●
第2位:PASMO(パスモ)関東の私鉄 3,844万枚 ●
第3位:ICOCA(イコカ)JR西日本 2,148万枚 ●
第4位:manaca(マナカ)名鉄など 680万枚 ●
第5位:nimoca(ニモカ)西鉄 399万枚 ●
第6位:PiTaPa(ピタパ)関西私鉄 332万枚 ●
第7位:TOICA(トイカ)JR東海 291万枚
第8位:SUGOCA(スゴカ)JR九州 289万枚 ●
第9位:KITACA(キタカ)JR北海道 160万枚
第10位:はやかけん(福岡市交通局) 133万枚
各社の情熱のかけ方が、そのまま表れていると思います。
ほとんどすべてのコンビニで利用できる交通系電子マネーですから、その事業者が加わったことで、キャッシュレス決済は確実に進むでしょう。
しかし、手続きをどこまでシンプルにできるかが、成功を左右します。
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- 交通系電子マネー参入・足りないシンプリシティの思想(10/1)
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『達人岩田昭男のクレジットカード駆け込み道場』(2019年10月1日号)より抜粋
※タイトル、見出し、太字はMONEY VOICE編集部による
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世の中すっかりカード社会になりましたが、知っているようで知らないのがクレジットカードの世界。とくにゴールドカードやプラチナカードなどの情報はベールに包まれたままですから、なかなかリーチできません。また、最近は電子マネーや共通ポイントも勢いがあり、それらが複雑に絡み合いますから、こちらの知識も必要になってきました。私は30年にわたってクレジットカードの動向をウォッチしてきました。その体験と知識を総動員して、このメルマガで読者の疑問、質問に答えていこうと思います。ポイントの三重取り、プラチナカード入会の近道、いま一番旬のカードを教えて、などカードに関する疑問にできるだけお答えします。