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ケンタッキー「脱クリスマス」で業績絶好調、なぜ短期間で改革できた?=栫井駿介

ケンタッキーでおなじみ、日本KFCホールディングス<9873>の株価が急騰しています。今年の7月頃から上昇を始め、上昇率は70%にのぼります。長らくほとんど動かなかった状態からの急激な伸びです。一体何が起きているのでしょうか。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

「500円ランチ」が流れを変えた。この人気はどこまで続く?

「クリスマスだけの会社」に異変

日本KFCホールディングスは、皆さんご存知のフライドチキンのお店を直営およびフランチャイズで運営しています。街中やショッピングモールで目にする機会も多いでしょう。

特に盛り上がりを見せるのが12月です。本場のクリスマスでは七面鳥を食べるのが恒例ですが、日本ではそれがチキンに置き換わっています。

チキンと言えばケンタッキーということで、クリスマスに爆発的な需要を見せるのです。

業績でもそれが裏付けられています。以下は過去3年間の四半期業績です。

このように、毎年第3四半期(10-12月)に売上・利益ともに大きく伸びることが分かります。まさにクリスマスで持っている会社なのです。

ところが、今年は異変が起きています。以下のグラフを見てください。

これまで赤字続きだった第1四半期(4-6月期)が9.5億円の黒字に転換、第2四半期(7-9月期)も50%以上の増益となっています。

上半期累計で売上高は8.1%増、営業利益は5倍にも伸びているのです。

こうなってくると、投資家の期待は膨らみます。なぜなら、これからやってくるクリスマスには間違いなく大きな需要が発生するからです。

例年どおりに乗り切るだけでも、過去最高水準の利益が期待できます。

日本KFCホールディングス<9873> 日足(SBI証券提供)

このような期待感から、このクリスマスに向けて株価が一段高となっているわけです。投資家とは実に抜け目のない人たちです。

Next: 「500円ランチ」が流れを変えた!ケンタッキーの恐るべきポテンシャル



「500円ランチ」で日常利用促進

日本KFCは、どのようにしてクリスマス以外の需要を開拓してきたのでしょうか。

そのヒントとなるのが、2018年9月に公表された中期経営計画です。その中に「『お客様目線(現場目線)』における現状課題と対応戦略」という項目があります。

これまで解説してきたような、クリスマスを中心とする需要に対する問題提起が行われています。

確かに、クリスマスを入れれば通期での業績は黒字化しますが、四半期で見てたびたび赤字が発生しているというのは問題です。

赤字が発生するくらいなら、いっそその間は店を閉めたほうが良いということになります。

そこで、日本KFCが採った戦略は「日常利用の促進」です。具体的には「水曜日限定9P¥1500バーレル」「500円ランチメニュー」など、特別な時でなくとも利用しやすいような施策を行いました。

また、これまでお持ち帰りが中心だったところから、店舗内でくつろげるような改装も実施しています。

これらの施策により、これまで閑散期だった時期の安定した需要を取り込み、黒字転換・大幅な利益改善が図れたのです。

当たり前といえば当たり前の施策ですが、クリスマスに縛られていたところからうまく発想の転換が行われた事例だと言えます。

ケンタッキーが持つ潜在力を活かしたマーケティングの成功例

それにしても、施策を開始してすぐに効果が出るというのは大したものです。なかなかこうはうまくいきません。裏を返せば、ケンタッキーがそれだけの潜在力を有していたということになります。

何よりも大きいのは知名度です。ケンタッキーを知らない人はほとんどいないでしょう。クリスマスの時期になるとテレビCMもたくさん流れます。一度食べたことのある人なら、無性に食べたくなることもあるでしょう。

悪いイメージもありません。みんなが集まった楽しい時に食べるというイメージがありますから、企業ブランドがそれと結びついているのです。あえて挙げるとすれば、健康や美容にはあまり良くないということですが、それを気にする人はそもそもターゲットになりません。

最近はやたらと「健康」「ダイエット」を全面に出したがります。しかし、テレビや雑誌で取り上げられても、その後大ブームになったという話をあまり聞きません。

一方で、少し前にブームになった「いきなりステーキ」はそれとは対局にある「肉」ですし、反対に女性を意識しすぎたメニューを導入した大戸屋は客離れが進んでいます

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健康志向が悪いとは言いませんが、マーケティングで大切なのはターゲットを明確にし、そこに向けた適切なメッセージを伝えるということです。

その意味で、高畑充希さんが美味しそうにフライドチキンを頬張るテレビCMは秀逸だと感じます。

結局、誰も食欲には勝てないということでしょう。

Next: やがてマクドナルドと肩を並べる? この人気は今後も続くか…



この人気は今後も続く?

これから日本KFCの業績や株価はまだ伸びるのでしょうか。

今期に関して言えば、すでに期初に出した通期予想利益を超過しています。日常使いが増えれば顧客のロイヤリティも上がりますから、クリスマスの需要がさらに伸びてもおかしくないと思われます。

もっとも、今年は曜日の並びが悪く、12月23~25日は平日となっています。保守的に見て、昨年と同程度の利益としましょう。それでも、昨年の2倍近い40~50億円の営業利益をあげられると推察します。

現在の表面上のPERは、業績予想を引き上げていないことから74倍と割高に見えますが、純利益が昨年の2倍になると考えれば実質18倍と特に割高ではないことがわかります。

そこから先の成長性にも期待が持てます。クリスマス中心から日常使いに発想を転換できたことは、小手先ではない大きな変化です。

何がすごいかと言えば、追加的な投資がほとんどいらないということです。飲食チェーンが成長するには、基本的に店舗を増やし続ける必要があります。これはコストの上昇と管理の難しさというリスクの上昇を伴う諸刃の剣です。

例えば、いきなりステーキは店舗の拡大を急ぎすぎたために、その後遺症に苦しんでいます。

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ハードの投資がなく、ソフトの改善だけで良いのですから、売上が増えた分はほとんど利益になります。その意味で、まだ余力を残していると言えるのです。

ファストフードとしてマクドナルドやモスバーガーと肩を並べるようになれば、長期的な安定性も加わるでしょう。

株価はバブルではない

株価は急騰してなかなか手を出しにくいところです。

日本KFCホールディングス<9873> 日足(SBI証券提供)

しかし、これはバブルではなく実需に見えます。少し落ち着いた頃に投資を考えてみるのも悪くないでしょう。


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image by:DutchMen / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2019年12月18日)
※太字はMONEY VOICE編集部による

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