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2020年、日経平均4万円へ? 世界経済を襲う7つのリスクと日本株のゆくえ=矢口新

2020年、日本株は4万円を目指して行くと見ている。多くの市場が史上最高値を更新するなかで、誰が日本株の上値を抑えてきたのかもデータで解説したい。(『相場はあなたの夢をかなえる —有料版—』矢口新)

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プロフィール:矢口新(やぐちあらた)
1954年和歌山県新宮市生まれ。早稲田大学中退、豪州メルボルン大学卒業。アストリー&ピアス(東京)、野村證券(東京・ニューヨーク)、ソロモン・ブラザーズ(東京)、スイス・ユニオン銀行(東京)、ノムラ・バンク・インターナショナル(ロンドン)にて為替・債券ディーラー、機関投資家セールスとして活躍。現役プロディーラー座右の書として支持され続けるベストセラー『実践・生き残りのディーリング』など著書多数。

金融緩和を継続させる7つのリスクとは?カネ余りは今後も続く…

世界が不安定だからこそ株価は上昇へ

米国と中国は世界の覇権を争っている。両国は諸国を自陣営に獲得しよう、あるいは繋ぎ止めようとするなかで、世界は以前にも増して不安定になっている。

一方で、世界的に株価は上昇し、史上最高値を更新する市場も少なくない。

こうしたことに不安を覚える投資家も多いようだが、データは世界が不安定だからこそ、株価が上昇してきたことを示唆している。

これまで私は、カネ余りが株価を押し上げてきたと述べてきた。カネ余りもまた、世界が不安定なことへの政府・中央銀行の対応だと言える。

昨年ここで述べたような、2019年末までの日経平均4万円超えはなかったが、2020年も引き続き4万円を目指して行くと見ている。

また、多くの市場が史上最高値を更新するなかで、誰が日本株の上値を抑えてきたのかもデータで明らかにしていく。

過去の参考記事は以下の通りだ。

【関連】2019年末までに日経平均4万円超えか、今年の「10大リスク要因」から円・日本株の動向を読む

【関連】2018年「カネ余り」の終わりの幕開け。それでも日経平均は4万円を目指す

【関連】荒れる2017年相場のキーワードは「カネ余り」その矛先はどこへ向くか?

世界を取り巻く7つのリスク金融緩和について解説し、2020年の展望を述べたい。

リスク1:世界的な市民の蜂起

BBCは世界的に市民が蜂起しているとして、その理由を、
1:不平等
2:腐敗
3:政治的自由の追求
だとした。

そして、香港、インドネシア、キルギス、ウズベキスタン、イラン、イラク、レバノン、エジプト、スーダン、ギニア、ロシア、フランス、カタルーニャ、キューバ、ボリビア、チリでの市民蜂起を取り上げた。

他の英文メディアを参照すると、インド、エチオピア、リビア、アルジェリア、ベネズエラ、コロンビア、エクアドルなどでも市民が蜂起している。

「不平等」「腐敗」「政治的自由の追求」だと言えば大きな理由だが、暴動に至ったきっかけは一部のサービスの「値上げ」など、これまでの常識からすれば「ささいな理由」であるものが多い。

ネットでの挑発や、世界の覇権争いのなかでの扇動行為も見られるのだろうが、少なくとも火を付ければ簡単に燃え上がるほど、自国政府に対する不満が高まっていることは間違いがない。乾ききっているのだ。

市民蜂起に対する政府の対応も過激だ。

香港では丸腰の高校生が至近距離から銃撃された。チリでは警察がデモ隊の目を狙ってプラスチック弾を撃ち、失明する市民が続出した。イランでは各地で起きたデモの数の2〜3倍の人数が銃殺されたと報道された。屋根の上などからデモの主導者だけを狙い撃ちしたようだ。

武力でしか統治できない政府が増えているのだ。

Next: リスクは山積み。米中対立、トランプ大統領の弾劾が株式相場を襲う



リスク2:米中対立

米中貿易戦争の第1段階は概ね合意されたとされる。これにより関税引き上げは延期された。中国は関税引き下げも表明した。

とはいえ、米中対立の本質が世界の覇権争いである以上、簡単な最終合意は望めない

例えば、米国は核軍縮条約をめぐり中国の参加に固執している。米ロが新戦略兵器削減条約を結べば、中国の核戦力増強を抑えられないとの懸念からだ。

事実、2018年8月から2019年6月にかけて、米露がそれぞれ265個、350個の核弾頭を減らした中で、中国は10個ながら増加させた

米中は共に軍拡を急いでいる。共に、南シナ海、東シナ海の制海権を握ろうとしている。中国は台湾を武力を用いてでも併合したいと発言している。

こうした対立が将来どのような結果に繋がるかは現状では不明だが、2020年に米中対立が解消するとは考えない方が無難だ。

リスク3:トランプ大統領の弾劾

米下院は2019年12月19日にトランプ大統領を弾劾訴追した。

訴追理由は「権力の乱用」と「議会妨害」とされているが、ブルームバーグなどは20近い「罪状」を挙げている。どれもが、過去にメディアで大きく取り上げられてきたものばかりだ。

トランプ大統領は「米国第一主義」を掲げるが、世界の覇権国家であるこれまでの米国の大統領が自国より国際機関や他国を優先してきた事実はない。

誰もが「米国第一主義」だったのだが、覇権国家としてより巧妙であったのだ。

「大欲は無欲に似たり」という言葉がある。米国で言えば、世界覇権のような大欲は、一見無欲に似ているというものだ。トランプ大統領以前の大統領達は、世界貢献という体裁を取りながら、自国の利益を優先してきた。これは長期的な視野で、いかに短期的な欲望を抑えられるかにかかっている。例えば目先の欲に目がくらむと、人との信頼関係が築けないようなものだ。

私は常々「米国の覇権を弱めているのはトランプ大統領だ」と述べている。象徴的なのが、エルサレムとウェストバンクでのイスラエルへの肩入れで、これで心情的にはすべてのアラブ諸国を敵に回した。

トランプ大統領の一連の政策で一番得をしたのはロシアで、中国とは軍事同盟を結び、NATOからは事実上トルコを得た。アラブで最も親米的なサウジアラビアでさえ、ロシアとの大型契約を結んだ。

トランプ大統領でない方が、米国の覇権維持には有効だ。

とはいえ、世界一の大国の大統領が弾劾裁判にかけられるというのは、2020年の大統領選と相まって、世界経済、金融市場の大きなリスクだと言える。

Next: ブレグジットはもはやリスクではない?次なる欧州の脅威とは



リスク4:欧州におけるユーロ懐疑派の躍進

ブレグジットはもはや世界経済のリスクではないだろう。早期離脱を推進するジョンソン首相が議会を制したことで、ブレグジットは英国と、時間だけの問題となった。

当然、英国と関係がある諸国にも影響は及ぶが、これは悪いことばかりではない。最も悪いのは、宙ぶらりんであることで、これまで関係者の誰もが何の決断も下せないできた。

むしろ、問題はユーロが抱える(1つの金融政策で、各国の様々な経済・財政・社会保障制度などに対応するという)構造的な問題だ。

通貨や金利の変動は、経済の強弱や貿易の不均衡を市場が調整する機能を持っている。ユーロ圏では通貨と金利が変動しないために、各地の経済格差が拡大した。

そのこともあり、各地でユーロ懐疑派が躍進している。

現状はマイナス金利政策で、誰もが恩恵を受けられると同時に、誰もが大きなコストを払う状態となっている。

<マイナス金利政策のメリットとデメリット>

ここで、マイナス金利政策のメリットとデメリットを整理しておこう。

メリットを以下に挙げる。

1)イージーマネー:企業や家計の借り入れコストを引き下げて経済を活性化させる
2)預金金利ほぼゼロ:預金する意味がないので、消費マインドが高まる
3)通貨安:輸出品が割安となり価格競争力を高める
4)物価上昇:景気回復、消費拡大、輸入物価上昇で、インフレ率が上昇する

ところが、マイナス金利導入後5年半が経過した今も経済は低迷し、インフレ率も低いままだ。一方で、上記の4つは同時にデメリットにもなり得る。

1)イージーマネー:債務が膨張する
2)預金金利ほぼゼロ:年金、保険を含め、資金運用が困難になる
3)通貨安:輸出企業は恩恵を受けるが、国全体の富は国際比較で減少する
4)物価上昇:所得増を伴わない物価上昇は、購買力を低下させる

それに加えて、国債などを大量に購入する量的緩和を行えば、市場に出回る国債がいずれ枯渇する。中央銀行がどこの国の国債を買うかにも、恣意的な判断が紛れ込む。また、銀行収益の低下、収益性の低い「ゾンビ企業」の延命といったデメリットがある。

実際、ユーロ圏の銀行はボロボロで、「ゾンビ企業」を延命させるために、自らがゾンビとなってしまったようなものだ。

Next: 世界経済の伸びが鈍っている? 消費増税の影響は…



リスク5:世界経済の停滞

世界の2大経済大国、米国と中国の貿易戦争が続いていたために、世界経済の伸びが鈍っている

また、世界の貿易数量もリーマン・ショック後の金融危機以来の落ち込みとなった。

世界的に債務残高が拡大し、米中を含め、信用リスクの高まりが指摘されている。

リスク6:消費増税の影響

経済政策としての増税とは、景気過熱を抑える時に行う

実際、消費税3%を導入して以降、ほどなくして日本の名目GDP成長率は急減速を始める。5%に引き上げ後は、減速どころかマイナス成長となる。

とはいえ、アベノミクスによる未曽有の緩和政策で、経済成長は緩やかながら長期的に続いてきた。これを戦後最長などとはやす向きもあるが、この成長は低く落ちたところからのもので、事実上カネで買ったものだ。

実際、経済規模の前のピーク1997年(消費税率5%に引き上げの年)と比較すると、資金供給量を10倍以上とすること(加えて計算方法の見直し)で、ようやく20年前の経済規模を超えたのだ。

ここでの消費税率10%への引き上げは、長すぎる景気回復を抑えるためだったのだろうか? 極めて危険な考え方だ。

税収増のためだというのは嘘に近い。なぜなら、消費税を導入したためにかえって総税収が減ったという歴史があるからだ。

昨年度までの税収のピークは、消費税収の上乗せがあった1990年度と約30年も前なのだ。なぜなら、消費税導入と引き換えに、経済成長と、所得税、法人税などが急減したからだ。

今後も未曾有の金融緩和を続けるから大丈夫だというのも疑問だ。すでに日銀の資金供給量は経済規模を超えており、これからは実体経済以上のマネーで成長していくことになる。そのマネーも、膨大な累積赤字、政府債務を鑑みれば、すでに限界的な信用創造を未曾有の規模に膨らませて行くしかない。

多重債務の日本政府は、親の懐(国民の資産)を当てにしているだけの放蕩息子だ。私は1989年の税制改革は「日本経済を破壊するもの」だったと観ている。

Next: 最後のリスクは「気候変動」、災害はさらに凶暴さを増す



リスク7:気候変動(旱魃と洪水)

昨年のこのコラムでは「ニューヨーク・タイムズ紙は、2018年を『激甚災害元年』と名付けた」とご紹介した。実際、世界各地で気候変動が自然だけでなく、人命や経済活動を破壊し始めている。

今年のニューヨーク・タイムズが取り上げていたのはインドで、雨がまったく降らない時期が延びるようになり、降ると土砂降りとなる地域が広がっているとした。つまり、旱魃と洪水の繰り返しなのだ。

こうした傾向はアフリカ南部にも見られている。オーストラリアの山火事は今も燃え続けている。

また、海水温の上昇は台風を育て、エネルギーを供給し続ける。海の生物の形態や生息地を変化させる。そして温暖化は、様々な病原菌をも勢いづかせることになるのだ。

2020年は激甚災害3年となる。もはや、自然災害と隣り合わせに生きていることを自覚せねばならないようになってきた。

Next: 7つのリスクが金融緩和を継続させる。そして「カネ余り」は2020年も続く…



金融緩和の継続

こうしたリスクは世界的な金融緩和の継続を暗示する。緩やかな引き締めには、早いところは2014年くらいから、米国も2015年末からは転じていたのが、2019年は押し並べて緩和に転じた。

米連銀は2019年9月から、資金供給も再開した。

この資金供給のきっかけは、銀行間短期資金取引市場の翌日物金利が10%に急騰したことを受けたものだ。当初は臨時的な資金供給オペレーションだとされたが、一時的どころか、2020年半ばまでは継続すると決められた。

その理由は、住宅ローン市場のノンバンクの資金繰りが悪化し、そこに融資していた地銀が銀行間で資金が取れなくなり、やむなく連銀が供給しているものと言われている。

2020年も世界的に金融政策は現状維持か、利下げだと見込まれている。

このことは、根っこで株高を支えてきた「カネ余り」が、2020年も続くことを示唆している。

Next: なぜ自社株買いが増えた? 日本株だけ上値が重いワケ



リスクが大きいからこそ、自社株買い

これだけのリスクがあれば、企業が設備投資に踏み切れないのは自然だ。

設備投資だけではない。株式投資にも消極的になる。米株に関すると、2014年から2018年にかけて、年金は5年連続の売り越し。投信は2016年から3年連続で売り越し。生保は2017年から2年連続で売り越した。2018年は外人投資家も売り越した。家計は2017年、2018年と買い越したが、2019年は一転して大量に売り越した。彼らが買い越しに転じたのは、2019年10月以降なのだ。

ご存じのように、米株は最高値を更新し続けている

誰が買っているかというと、大金融緩和と、大減税でキャッシュリッチながら、事業投資に及び腰な企業だ。企業は2014年からでも5年連続で、しかも大量に買い続けている。アップルなどは、営業益やフリーキャッシュフローで得た金額以上の自社株買いを行っている。

2019年10月以降からは、「買えてない」個人やファンドが、慌てて買い始めたのが実情だ。

日本株はどうして上値が重い?

2005年から2019年11月までの投資家別売買動向を見ると、日本株を買ってきたのは、海外投資家が33.5兆円、日銀が28兆円、企業は21.7兆円などとなっている。一方の売り手は個人投資家が46.1兆円、保険会社が7.3兆円、銀行が4.9兆円だ。

売っているのは、個人と、個人の資金を預かる日本の機関投資家だ。買い手である年金や投信もそれぞれ3兆円も買っていない。これでは、米株などのように史上最高値など望むべくもない

こうしたデータを見る限り、日本人自身が株高を望んでいないのだ。

とはいえ、保険会社や銀行が継続的な売り手となったのは、日銀が超低金利政策を始めてからだ。金利低下で儲からなくなった金融機関が保有株の「益出し」を始めたのだ。

個人も20年以上も景気が低迷し、所得が伸びない中での「売り食い」もある。以前の買値に戻ったための「やれやれ売り」もある。株式を相続し、相続税を支払うための「換金売り」もある。

事情は様々だが、概ね株式投資をする「余裕」を失ったというところだろう。

Next: 日経平均は4万円を目指す? 2020年の日本株はどうなるのか



2020年の日本株はどうなる?

これまでの売り手は、2020年も概ね売り手でい続ける見込みだ。大きな環境の変化が見られないからだ。

一方の買い手も継続する見込みだ。日銀は緩和政策の継続を表明している。企業の自社株買いも続く見込みだ。年金は株価が下げた時にだけ、まとまって買うことができる。海外投資家は、ここ数年は売り手だったが、2019年10月以降に米国で見られている株式への大資金移動が日本株にも及んできている。従って、2020年は海外投資家の買いが期待できるのではないか?

私は引き続き日本株は4万円を目指すとしているが、いつ到達できるかは、個人投資家の動向にかかっていると観ている。2005年以降からだけでも、46.1兆円を売った個人投資家だが、それで売り尽くしたわけではない。

2019年6月時点の日本人の金融資産は1,860兆円だ。株売り46.1兆円と比べると、あまりにも大きい。金融資産のうち、株式保有は195兆円、株式投信は70兆円だ。合わせて、全体の15%となる。

一方、米国人はその資産の約5割を株式と株式投信で保有している。欧州でさえ3割だ。

仮に日本の個人が欧州並みに株式資産を持つとすれば、ここから265兆円を買うことになる。米国並みに増やすとなると、665兆円を買わねばならない。

バブルは最後の1年ほどで、価格が2倍にもなってしまうような動きをする。継続的な売り手だった日本の個人投資家がその資産のほんの一部を株式にシフトするだけで、あるいは売りを止めるだけで、株価は跳ね上がってしまうのだ。

そんなこんなで、私は日本株4万円の夢を見続けている。

2020年が皆様にとって良いお年でありますように!

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【関連】AIでも5Gでもない。2020年に投資家が注目すべき業界と5銘柄はこれだ=栫井駿介

image by:beeboys / ShutterStock.com

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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2019年12月27日)
※タイトル・見出し・太字はMONEY VOICE編集部による

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