コロナ感染拡大を封じ込めるためには再度の短期集中的な休業要請が必要ですが、自治体は財政資金不足で補償金が出せません。今こそ10兆円の予備費を有効活用すべきですが、臨時国会も開かれず日本は「無政府状態」。このままでは大型企業破綻が続出します。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2020年8月12日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
日本の景気に大ダメージ。中途半端なコロナ対策
新型コロナウイルスへの対応の違いが、経済成果に大きな差をもたらすことが次第に明らかになってきました。
短期集中的に新型コロナの感染を抑え込んだ国が、いち早く経済の再開、正常化を取り戻しつつあります。中国、台湾、ニュージーランドなどです。
これに対し、新型コロナはただの風邪だと、これを無視したブラジルで感染が著しい拡大を見せ、多くの犠牲者を出し、結果的に経済も大きな打撃を受けました。
また、感染を抑えつつ、経済も回したいと、「二兎を追った」国が、結局は感染も抑えきれず、経済には財政負担が重くのしかかり、経済活動にも自然にブレーキがかかり、結局「一兎をも得ず」の形になりつつあります。
米国や英国、日本などがこれにあたり、米国では早くもこれまでの対策効果が息切れし、追加のコロナ対策をめぐって与野党の協議が決裂、景気の先行き不安が出ています。
日本では夏場の観光シーズンを狙って「Go To トラベル」を打ち出しましたが、感染拡大で人が動けず、観光地や輸送機関は大幅な客足の減少を余儀なくされています。沖縄那覇市では自主休業に追い込まれる企業が続出しています。
大企業から飲食店まで、このままでは倒産ラッシュに
日本では7月下旬の「オリンピック4連休」を狙って、観光関連の復活を狙い、感染拡大のもとでもあえて「Go To トラベル」キャンペーンを強行しました。
しかし、実際には京都などの観光地では閑古鳥が鳴き、有名な神社仏閣でも拝観者はまれで、有名料亭も開店休業の状態にあり、新幹線も飛行機も乗客より整備の人のほうが多いほどの状態だったといいます。
4-6月期に1,000億円前後の大幅赤字を出したJALやANAは、7-9月の夏休み、お盆帰省シーズンも空振りで、このままでは連続赤字の懸念が高まっています。
JR各社も新幹線の利用者が大幅に減り、夏の書き入れ時でも挽回できず、むしろ赤字経営が続いている可能性があります。
東京など大都市の飲食店は、もともと感染不安で客足が戻らないところへ、営業時間の短縮要請が追い打ちをかけています。
このままでは観光関連のみならず、飲食店など接客サービスを伴う店は経営が成り立たなくなります。時短協力金20万円でカバーできるところは極めてまれです。
現に東京都の時短要請に応じない企業も少なくありません。
Next: 「10兆円の予備費」を寝かせたまま、コロナ対策を国民に丸投げ
自治体も国民も「休業」に耐えるための金がない
政府や各自治体が思い切った感染抑制策に打って出られない背景の1つに、財政的な制約があります。
都市封鎖(ロックダウン)などでヒト・モノの動きを封じ込めれば、感染の拡大は抑えられるのですが、その間の生活保障、休業補償にはお金がかかります。首都圏の県知事の中には、「休業要請するにも、補償金を出す財政的余力がない」との不満の声も聞かれます。
東京都も、接待を伴う飲食店・カラオケなどに時短を求めましたが、休業要請すればそれだけ資金が必要です。しかし、さすがの東京都も財政が底をつきました。
そこで時短に協力した企業に20万円のオファーとなったのですが、20万円では損失の補填はできないところがほとんどです。
政府も第2次補正予算までの段階で、新規の国債発行が90兆円に上り、財政再建の目標は事実上旗を降ろしました。
それでも、相次ぐ自然災害とコロナ禍が同時進行しているため、金銭的にも人的支援の面でも動きが取れなくなっています。
臨時国会から逃走、生活苦を無視する「無政府状態」
しかも、通常国会が会期延長なしに閉会し、秋の臨時国会もいつ開かれるかわからない状況で、かつてない危機に、なかば「無政府状態」でコロナ対応は地方や国民任せになっています。
その中で全国的に感染が拡大し、個別に緊急事態宣言を出す地域も出てきました。安倍政権は感染抑制と経済を回すことを同時に求めてきましたが、結局どちらも達成できずに、新たな対応を迫られています。
こうしたやり方を続けていれば、財政資金はいくらあっても足りません。いずれ財政の破綻に行き着きます。
いざという時の「10兆円」はウソだったのか?
政府は通常国会の会期延長を拒んだ際、第2次補正予算で10兆円の予備費を用意したので、いざという時にはこれを使うと説明し、その目度として、雇用調整助成金など雇用維持や生活支援に1兆円、持続化給付金・家賃保証などの事業支援に2兆円、地方向け医療体制強化に2兆円を充てると説明しました。
今はこれを活用するしかないのですが、これも具体的な形で機能していません。経済崩壊と財政破綻を避けるために、この10兆円の活用法を考える必要があります。
Next: いま10兆円を使わないでどうする。日本を救う2つの使い道
経済崩壊と財政破綻を避ける「10兆円」活用法
<その1:医療投資>
まず、個人が安心して動けるように、不安を解消する必要があります。
その1つに、抗ウイルス薬の開発があります。ワクチンについては有効性、安全の確認に時間がかかり、その過程を経ないで利用することに約3割の人が不安のために接種を拒否しています。むしろ、インフルエンザ薬のような、抗ウイルス薬の開発が急がれます。
それと並行して、唾液によるPCR検査の活用体制を早急に整備し、感染者の隔離、濃厚接触者の追跡体制を強化するための人員確保、増強が必要です。ニューヨークでは3万人を登用しました。
そして感染症専用の医療機関を早急に整備し、冬のインフルエンザ期到来の前に確保する必要があります。防護服、人工呼吸器などの補給も急がれます。
これらは現場を知った自治体に任せ、後で国の資金を振り替えます。
<その2:短期経済封鎖補償金>
政府の感染予防策は破綻しました。国民に注意喚起するだけで、具体的な制限を設けず、各自治体に任せましたが、国は帰省OKという一方で、東京都は自粛を呼びかけるなど、ちぐはぐです。
国民の良識に任せても、電車内など公的な場でマスクを着用しない人、着用しても顎にかけていて友人と話し続ける人などもいて、すべての人に「良識」を期待することはできません。
結局、ニュージーランド・中国・台湾などのように短期間徹底して移動を封鎖し、その間に事業ロス・所得ロスを政府が保証する形をとるしかないでしょう。
日本も4月に1度は成功しかかったのですが、その後に管理を緩めたために、また感染拡大を招いてしまいました。日本は対応が中途半端なうえに、補償金の支給などに手間と時間がかかり、必要な時に補償金が支払われない不手際が目立ちます。
そもそも、2月に国内感染が広がり始めてからすでに半年がたって、今頃対応策のスキームを検討するなどというのは、あまりに危機感がなく、この遅い対応が結果として感染を拡大させ、必要以上にコストを高めています。
短期集中的に感染抑制策を実施できるよう、スピーディな政策対応が必要で、それにはトップのリーシップが必要です。
それができないならば、トップの交代が必要です。
Next: 国民の不満爆発。コロナではなく政府の無策に殺される
内閣支持率の低下は「国民の不満爆発」の兆候
補正予算で用意した10兆円の予備費も、使い方いかんです。
PCR検査と医療職員、保健所代替サービス職員を急募し、大学等の研究機関に抗ウイルス薬の開発補助金を出し、全国知事連絡会にロックダウンも含めた対応を委任し、これらに要する資金を即刻10兆円予備費から出し、3週間の期間を限定して国民に我慢の巣ごもりを要請するのも一案です。協力金をすぐに支給できる体制が必要です。
10兆円の予備費は「いざという時の保険」に取っておくほど、現在の日本は余裕がありません。むしろ短期集中的に、最も効率的な方法で活用し、3週間で感染者ゼロを実現するしかありません。足りなければ3次補正をすればよいのです。
そうでないと、一般飲食店、観光ホテルばかりか、JALもANAもJRも破綻してしまいます。
そして国民のストレスも爆発しかねません。内閣支持率の低下はその不満の兆候ともいえます。
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『マンさんの経済あらかると』(2020年8月12日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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