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コロナワクチンで儲かる企業は?ファイザー・モデルナ・国内4大医薬品卸を分析=栫井駿介

新型コロナのワクチン開発が間近と見られていますが、完成するといったいどんな企業が儲かるのでしょうか?株価への影響も考えます。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

2021年には世界人口の半分にワクチンが行き渡る

新型コロナワクチンの開発が間近と言われているのが、ファイザーとモデルナというアメリカの会社2社になります。この2社がメッセンジャーRMAと言って、今まで実用化がされていない方式を使ってコロナのワクチンを開発しています。

先に出てきたのは、ファイザーです。有効性がなんと90%超えにも及んだということで、期待が高まりました。それに少し遅れて発表したのがモデルナという新興企業ですけれども、有効性に関してはなんと94.5%と、ファイザーより高い数値を示しました。

そして供給網に関しても、ファイザーが今年に5,000万回分、来年は13億回分と先進国の大部分の人には行き渡るのではないかと思われます。一方でモデルナも負けていなくて、今年2,000万回、来年は5〜10億回分という形になっています。

1人に2回接種が必要ということなので、人口に関してみればこの回数で人口の半分には行き渡ると考えてください。

ただし、ファイザーのワクチンの発表がされた時に結構懸念されていたのが、輸送や保管に関してです。このファイザーの物はマイナス60度からマイナス80度という、超低温で保存しなければ持たなくて、いわゆる一般的な冷蔵庫のような2度から8度という温度だと5日しか持ちません。

これはアメリカの工場で作って世界中に運ぼうという形になると、このマイナス60度からマイナス80度という環境を作りあげないといけないので、もし空港までは何とか持ってきても、そこからさらに個別の病院に運んでいかなければならないので、移送がなかなか大変だという報道がなされていました。

これに対してモデルナの物はマイナス20度で半年持つのですが、2〜8度という一般の冷蔵庫の環境で30日持つと言われています。これならば特に一般的なワクチンと同じですから、普通に運んで皆さんのお手元にワクチンが届くという、画期的な発表を行っています。

投資家が期待を寄せるのは「モデルナ」

世界中の人がこのワクチンを受けるということになると、何億回分も供給するということになりますから、これらの会社は儲かるのではないかということが考えられます。

実際にこの有力なモデルナのケースで考えてみると、ワクチンの単価が大体20ドルから40ドル、日本円で2,000円から4,000円くらいと言われています。

これを来年、5億回分投入したとしましょう。すると単純計算で100億ドル、約1兆円の売上が経つということになります。

因みにモデルナは新興企業でまだそんなに売り上げがたっていなくて、2019年の売上高が0,6億ドルに過ぎません。そんな会社がいきなり0.6億ドルから100億ドルを稼ぐということになると、それはもう爆発的な利益になるのではないかと考えられています。

一方で、ファイザーに関しては510億ドルの売上高が常にあります。これに対しても100億ドルの上乗せは大きいは大きいのですが、モデルナほど爆発的に大きいわけではないということがわかるので、より株式市場として期待されているのも、このモデルナに対してということになります。

Next: ワクチンでは儲からない!? 利益をいくら乗せるかで議論も



各国政府の支援で開発、高い値段は設定できない

さて、この100億ドルというのは売上高ですから、企業を評価するには「利益」で評価しなければなりません。いったいどれくらいの利益になるのか、この100億ドルを元に計算してみたいと思います。

そもそも、新型コロナのワクチンで利益をあげるべきか?ということについては、議論になっています。モデルナを含めて様々な会社が政府の支援を受けて、お金をもらって研究開発を行って開発をしています。

政府のお金で作った物に利益をとっていいのかという議論もあるので、少なくとも、めちゃくちゃ高い値段というのは設定できないと思います。あくまで適正な利益の範囲内で価格設定するという形になるのではないかと思われます。

20%ぐらいの利益を乗せるのでないかと言われていて、実際にモデルナ自身もそういった発言をしています。100億ドル稼いだとして20%の利益率とすると、20億ドル(およそ2,000億円)の営業利益をあげられるのではないかと考えられます。 

ワクチンでは儲からない!?

2.000億円の利益が上がるなんて、やっぱりすごいじゃないか!という風に見えるかもしれません。ところが、これだけでは終わりません。

実はモデルナは、これまでもずっと赤字を計上し続けている会社です。

それでようやく新型コロナワクチンで花が開くかどうかというところなのですが、すでに今年に関しても、新型コロナのワクチンをめちゃくちゃな勢いで開発しているので、かなりの費用をかけています。その結果、直近12ヶ月で6.2億ドルの赤字を計上しています。

さらにこれから製造したり、製造のために工場を作ったりいろんな投資をしなければならないので、この6.2億ドルの赤字ではまだ収まりそうにありません。

それに対してこの20億ドル儲けたところで、実はそんなに利益が出ないのではないかという風にも考えられます。

その証拠といってはなんですが、モデルナの役員というのもモデルナの株式を持っているのですが、この新型コロナワクチンの期待でかなり株価上がっているのですが、株が上がる毎に持っている株を市場で売るというようなことをしています。

また一方で、ファイザーも直近でワクチンが報道された後に、株式を売り抜けるということを行っています。

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したがって、彼ら自身もこのワクチンを開発したところで、そんなに儲からないということには薄々気が付いているのではないかと思われます。

Next: コロナが収束したらワクチン会社は用済みに



ワクチンは医薬品業界にとっておいしくない

そもそもこのワクチンというのは、医薬品業界にとってあまりおいしいものではありません。

というのも、みんながこの新型コロナのワクチンを接種すると、やがてコロナ禍というのは収束に向かうということを考えられます。収束してしまうと、もはそのワクチンは必要ありません。

したがって、このワクチンのために莫大な投資をしたとして、回収期間がこの2年とか3年で終わってしまったら、結局は元が取れないということになってしまいます。

医薬品メーカーが儲かるのは「死なないけど治らない病気」

医薬品の会社にとって本当に儲かるのは、例えば糖尿病・高血圧・花粉症といった、死なない程度にやっかいで、しかし治らないもの。これが医薬品メーカーにとっては一番おいしいわけです。

何とかして治そうとするからある程度薬価が高くても、これを支払い続けるということになるのですが、最終的に完治するというのはなかなか難しい病気なので、薬をもらい続けるということで、死なないように、そして目先の生活を保とうとします。それに対して、薬のメーカーは利益を稼ぎ続けることができます。

もう一度言いますと、医薬品メーカーにとって儲かるのは「死なないけど治らない病気」。これが一番おいしいわけです。

皆さんも医薬品メーカーを見る時は是非そのような観点でも見てください。特に大きなメガファーマと言われる医薬品会社は、このような慢性の病気の薬に力を入れていることがよくわかります。

モデルナの株価は「1年で5倍」に上昇

さて、株価に関してですが、モデルナはこの1年でおよそ5倍近くまで上昇しました。

MODERNA INC<MRNA> 日足(SBI証券提供)

しかし今説明したようにワクチンの開発だけでは、目先は多少儲かるかもしれないですけれども、今後も儲かり続けるというのは難しいです。したがって、この株価というのはやはり、どこかで下落してしまう可能性があります。

なぜこんな上がっているのかというと、1つは技術に期待されているのではないかと思います。

今回のワクチン開発に使われた「メッセンジャーRMA」という方式は、これまで実現したことのない方式です。モデルナがその技術を見事に開発しました。それを欲しがるファイザーなどメガファーマと言われる巨大医薬品会社がいっぱいあるわけです。

したがってこれを嫁入り道具に、モデルナは他の会社に買収されるのではないかというのがもっとも現実的なシナリオだと思います。

Next: モデルナは大手の買収待ち?/日本の医薬品卸会社も儲かるのか



モデルナは大手の買収待ち?

そうすれば、モデルナも自ら製造設備を今から大量に投資しなくても、既存の大きな会社の製造設備でワクチンを作ることができますし、株主としても、買収されるということになると高値で株を買い取ってもらえるので、お互いがwin-winの関係になるということになります。

ただ、会社としての利益については、今後も上がり続けるのは難しいのではないかというところ。モデルナの役員も、株価が高いうちに持ち株を売り抜けてしまおうということを考えています。

一方でファイザーの株価を示しますと、ワクチンがこれだけ期待されていながら、株価はほとんど上がっていません。

直近の発表で上がりましたが、実際にはそれほど儲からない、さらには役員も売っている、モデルナがさらに良いワクチンを開発したらしいということになって、むしろ株価は下落に転じています。CEOは高値のところで売り抜けているので、非常に良い所で売ったということになります。

まとめると、ワクチンの会社を今から買っても、儲かるのは難しいのではないかということが考えられます。

日本の医薬品卸会社は?

では、それを日本で考えてみようということになります。

日本でワクチンを流通させるすると、実は「4大医薬品卸会社」というのがあって、必ずそれらを通じて日本の各病院に流通するということになります。

この4社というのが、メディパル、アルフレッサ、スズケン、東邦ホールディングスという4社です。これらが製薬企業から薬を仕入れて、そしてへ各医療機関に卸していくということになります。

最初はものすごい低温で運ばないといけないファイザーのワクチンについて考えられて、冷蔵庫の会社の株価が上昇したりもしました。しかしモデルナのワクチンが有効だとすると、そこまでのことは必要ないので、通常の仕組みでいけると思われます。また、そもそも医薬品の移送ということに関しては、4大医薬品卸会社が強みを持っているので、いずれにせよこれらの会社が運ぶということになると思われます。

ワクチンを仕入れて売るということになりますので、そこに利ザヤを乗せて売るということになります。

ワクチンの単価が2,000円だとして、これを2億回分にすると、売上高としては4,000億円くらいになるのではないかと考えられます。2億回分というと、1億人分ぐらいです。

それに対して粗利益率がこれらの会社が大体7%ぐらいなので、4,000億円の7%ですから、280億円ぐらいの粗利益がこの新型コロナワクチンの卸によって得られるのではないかと考えられます。

今は4社でほぼ寡占になっているので、4社で割った時に「1社あたり70億円」儲かるのではないかという風に考えられます。

Next: コロナ禍で業績悪化、日本の医薬品卸会社はワクチンで復活するか?



ワクチンでは日本の医薬品卸会社も儲からない

医薬品卸会社はワクチンで儲かるのではないかと見えるのですが、では業績を見てみましょう。

これらの会社はじわじわと業績を拡大させてきたのですが、直近ではガクンと業績が落ちています。これは新型コロナによって人々が病院に行かなくなってしまったので、出す薬の量が減ったからです。その結果、利益が大きく落ちてしまうということになりました。

メディパルに関しては210億円の減益、アルフレッサに関しては270億円の減益ということになっています。

さて、先程の話に戻りますと、1社あたりおよそ70億円の粗利益が上がると言いました。粗利益ですから、営業利益になる時にはもっと減っているということが考えられます。

それに対して、すでにコロナ禍で210億円とか270億円の減益が起きているわけですから、実はワクチン移送による利益というの「焼け石に水」です。

ということで、正直このあたりの会社は儲からないということになります。

むしろコロナ禍での減益の方が大きいので、コロナが終わってから普通の状態に戻った方が圧倒的にこれらの会社も儲かるということになります。

したがってこれらトータルでまとめますと、ワクチンそのものというのはあまり儲かるものではないということがわかります。

医薬品卸会社は「アフターコロナ銘柄」

そしてこの医療関係、ファイザーなどの医薬品会社も含めて、コロナでだいぶ使用が減っているというところがあります。

したがってワクチンそのもので儲けるのではなくて、ワクチンが普及してコロナ禍が終わった時に、いよいよ昔の状態に戻る「アフターコロナ銘柄」だということが考えられます。

私としては今回の調査をしている中でこの医薬品に卸会社というのは実は初めて知りました。昔はたくさんの会社があったようですが、今はこの大手4社に集約されています。

業績も見てわかる通り、非常に右肩上がりに伸びています。薬というのはどんどん必要になってきますから、これらが寡占状態で無理なくやっていることによって、じわじわと拡大しているということになります。

株価に関してもコロナ禍で落ちてきているということもありますし、今後も医薬品の取扱いというのは増えるでしょうから、じわじわと業績の上昇が期待できるのではないかという風に考えます。

PERに関してもは13倍と比較的低い水準に収まっている事から、今後も長期的な銘柄として注目に値するのではないかと思いました。

(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)

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image by:Vitalii Matokha / Shutterstock.com

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2020年11月21日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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