【衝撃】キリンが初の赤字に転落。見落とされた国際戦略の2つの問題点

 

その第一は「世界の最終消費者の市場が分からないし、追いかけるつもりもない」ので「対企業の取り引きに走る」か、あるいは「既存の地場産業を買いに行く」という「安易な道を選択しているという問題です。

その第二は、日本独自の「お小遣い帳的な素人会計制度」にいつまでも固執することで、「のれんの減損テストを毎年行わなかったり、あるいは買った企業の価値が堅実に維持されたり拡大しているのに「毎年定額で償却してみたり独善的な会計をやっているということです。そのために国境を超えた買収をやった後のグループ全体の経営の健全度が見えなくなっているのです。

今年の日本経済界の「大スキャンダル」であった東芝の問題についても、同じことが言えます。と言いますか、この2つの問題が重なった複合的なトラブルと言っていいでしょう。

この東芝の問題に関しては、不正会計問題の報道を受けて私は落胆して激しい怒りを感じたのですが、不正経理の話が本丸ではなく、要するにこの2つの問題の複合と見るのが正しいように思います。問題は東芝が「ウェスティングハウス・エレクトリック(WH)」というアメリカの大企業を買収しているのですが、その「会社の評価」というのが発端ではなかったかという点です。とにかくこのWH社の買収ですが、

「最終消費者向けのビジネスではなく、原発を売るという政府・企業相手のビジネス、つまり市場開拓の上では逃げであること」

「強気の経営計画を前提に企業価値が減らないという判断で帳簿をつけていたが、そこに恣意性があり、その結果としてグループ全体の会計に粉飾を施すことに追い込まれた

という2点が当てはまるのであり、正に今回議論している2つの問題があるわけです。

一言で言って「複式簿記国際会計基準の哲学を理解していない素人のサラリーマン経営者による大失態というしかないと思うのです。

報道によれば「業績不振が鮮明になった東芝は21日、新たなリストラ策として、家電部門と本社の管理部門で早期退職の募集や配置転換などを行い、計約7800人の人員削減を行うと発表」したそうです。その結果として、貴重な企業体力を担っている技術力まで低下するのではないか、私はそのことを非常に恐れています。

image by: TK Kurikawa / Shutterstock.com

 

冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋

著者/冷泉彰彦
東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは毎月第1~第4火曜日配信。
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