舛添氏騒動の裏で。マスコミが見過ごす「刑事訴訟法改正案」の危険度

 

ここに1つの「証言記録」がある。映画監督、周防正行の著書『それでもボクは会議で闘う』だ。

周防は2011年6月、刑事訴訟法改正案をまとめるための法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会の委員に選ばれた。民主党の江田五月が法務大臣だったこともあって、冤罪を扱った映画「それでもボクはやっていない」の監督である周防に白羽の矢が立った。厚労省の村木厚子も同じ一般有識者の委員として加わった。だが、会議が始まる前、メンバー構成を見て周防は苦戦を覚悟した。知り合いの法曹関係者は「絶望的なメンバーですね」とため息まじりだったという。

メンバーは42人。そのうち、一般有識者が周防ら7人、警察関係者が5人、法務省から検察官を含めて9人、内閣法制局1人、裁判官や元裁判官が4人、日弁連5人、学者11人。周防は「率直に言って、日弁連が主張する『全事件、全過程での取調べの録音・録画』といった改革を積極的に推進できるメンバー構成にはなっていない」と感じたという。

特別部会の発足後2年半を経たころ、村木から周防らに提案があった。有識者委員としてまとまって意見書を提出してはどうか、と。周防は思った。このままでは小手先の改革、いや改悪を阻止できない。自分たち一般有識者が賛成することで、広く国民の意見を取り入れたことにされるのでは、多くの人を裏切ることになる。村木の提案を受けて、5人の有識者がとりまとめた意見はおよそ次のような内容だった。

裁判員裁判対象事件に限定する理由はなく、原則としてすべての事件が対象となるべきである。ただし実務上、段階的実施もやむを得ないなら、裁判員裁判対象事件については取り調べの全過程の録音録画、検察官の取調べについては全事件、全過程の録音録画を行うことからスタートすべきだ。

しかし、周防らは役人話法に翻弄され悪戦苦闘を続けた。この本の中から周防の感じたことをいくつか抜き出してみよう。

会議の最中に、どれくらい呆気にとられるような警察、検察関係者の発言を聞いてきただろうか。…警察庁の坂口幹事が「カメラを突きつければ人は口が重くなります、警戒します。その人が白であっても黒であってもです。録音・録画すれば、取調べが持っている真相解明機能に障害が出る」と熱弁をふるった。ここまで来ると、徒労感しか覚えなかった。一体、誰がカメラを突き付けるのだ。

5人の意見書が出たあと、元検事総長但木敬一委員はこう言った。「この紙に書いてあることを一文字でも外したら俺は反対だなんて言わないで、やっぱりみんなで非常に貴重なものを出していただいたわけですから、これを1つの軸に…」。

一見やんわりとではあるが、これが全部認められることはないですよと、しっかり釘を刺されたのである。この会議を通して、僕には一体何本の釘が刺されたことであろうか…。

最終的な取りまとめ案を全会一致で承認したのは2014年7月9日の第30回会議においてであった。

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