なぜ日本には老舗が多く残り、韓国は三代も続く店がないのか?

 

御用商人の弁解

働きもない武士が高い俸禄を受け取るのは不当なように、商人にも不当な儲けがありうる。そこに商人として生き方が問われる。この点を梅岩は、次のような具体例で説明する。

さるお屋敷に出入りする御用商人が二人いた。そして、それ以外に新たに出入りを望む商人もいたが、窓口の買物方(かいものかた)の役人の話では「二人の御用商人から買う品物は、値段が、ことのほか高いように思う」とのことで、新しく出入りを願っている商人の絹の値段と比較してみると、金額にかなりの開きがあった。

 

で、その役人は不愉快になり、出入りの御用商人を一人ずつ呼びつけて、こう告げた。「そちらが持参した呉服は、ことのほか高かったから、他の商人のところの値段と照合してみたら、大変な差があった。不届き千万(せんばん)である」

一人の商人は、「初めてこのお屋敷への御出入りをお願い致しました折には、損をしてでもと思っておりましたが、その先々もずっとその値段を続けるのは無理でございます」と弁解した。

この御用商人は、経済的に苦しいかのように装って高利を申し立て、しかも役人を言いくるめようとした罪があるとされ、御用商人としての仕事を召し上げられた。

「正直によって幸を得たお手本」

もう一人の商人は、「不届き千万」と役人から言われて、こう答えた。

仰せ、ごもっともでございます。私ども、去年までは父が存命で御用達に関わっておりましたが、亡くなってしまい、代わって私がお役目を仰せ付けられましたのですが、不調法なもので、勝手がよくわからず困惑しております関係で、仕入れ下手ということもあり、仕入れ先が高値で売ったかもしれず、とても不安に存じております。

 

しかもこちらのお屋敷が調達なさった呉服を高い値段でお届けしてしまったことは、これまで受けたお殿様の御恩を忘れた所業と申すしかありません。今しばらくは、お殿様から頂戴しております扶持米(ふちまい、俸禄)で生活をし、今後一、二年のうちに家屋敷の道具などを処分して借金を返済したうえで、お屋敷の御用を務めさせていただけたらと存じます。

この言い分は次のように判断された。

もう一人の御用商人は、正直な言い分であったのに加えて、その商人が貧乏になったのは亡父の奢った暮らしが原因で、本人の罪ではなかった。

 

それなのに、亡父の罪を自分がかぶるという孝行な心やお殿様への忠義心などが見られたことから、後々も世のために役立つと判断され、役人が昔の借金にも耳を傾けて助力し、「これまでどおりの御用向きをせよ」と命じられた。

 

これぞまさしく、正直によって幸を得たお手本。そうなったのは、「三つの徳がある」とみなされたからだ。一つは、お殿様から受けた深い御恩を忘れず、高い値段をつけなかった誠実さ。一つは、父の贅沢を隠そうとした孝の心。一つは、役人を言いくるめようとしなかった正直さ。これら「三つの徳」がめぐりめぐって自身の幸せにつながったのである。

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