なぜ日本には老舗が多く残り、韓国は三代も続く店がないのか?

 

日本的経営の源流、石田梅岩

韓国には「三代続く店はない」と言われているそうで、せいぜい創業80年ほどの会社がいくつかあるに過ぎない。顧客からの信用を犠牲にして、企業が永続するはずもない。

逆に我が国は世界に群を抜く「老舗企業大国」だ。100年以上続いている企業が、個人商店などを含めると10万社以上あると推定されている。なかには西暦578年に設立された創業1,400年の建築会社「金剛組」を筆頭に、1,000年以上も事業を継続している超長寿企業も少なくない。

こういう老舗企業、長寿企業の多くが大切にしているのが、「暖簾(のれん)」という言葉で代表される信用重視の姿勢だ。日本的経営の特徴を一語で表すとしたら、この「信用」だろう。

顧客の信用を大切にする日本的経営の源流の一つが、石田梅岩の石門心学である。梅岩は江戸時代中期に生きた思想家、と言っても、百姓の家に生まれ、11歳で丁稚奉公を始めて以来、京都の呉服屋の番頭格にまで出世しながらも、神道や儒教・仏教の本を懐に入れて、仕事の暇に商人の道を考えた実学の人である。

45歳にして、自分の考えを多くの人に伝えたいと、呉服屋の奉公を退き、無料の講席を開いた。やがて京都の商家の間で評判を呼び、大阪にまで呼ばれるようになった。

梅岩の講席で、聴衆との問答をまとめた一書が『都鄙問答(とひもんどう)」である。梅岩の思想については、本講座 NO.406「石田梅岩 ~『誠実・勤勉・正直』日本的経営の始祖」でまとめたが、今回、『都鄙問答』の読みやすい現代語訳が、致知出版社の「いつか読んでみたかった日本の名著シリーズ」から出たので、特に日本的経営に関する部分を中心に紹介したい。

商人の儲けは武士の俸禄と同じ

ある講席で、「大体、商人には強欲な者が多く日頃から利を貪るのを仕事だと思っている」という意見が、ある学者から出た。当時の商人は「士農工商」の4階級で一番下におかれ、武士の生き方を説く学者の間では、こういう偏見が広まっていたのだろう。そして、商人自身も、そういう偏見の中で、自分の職業に誇りを持てなかったのではないか。

この無遠慮な質問に、梅岩はこう答える。

商人としての正しい道を知らない者は、利を貪ることにのめり込み、かえって家をつぶしてしまう。それに対し、商人としての道を悟れば、欲得ではなく、「仁」を心がけて仕事に励むので、家は栄える。そのようにするのを「学問の徳」としているのである。

学者は、これに「それなら、売る物で利益を出さず、仕入れ値で売れと教えるのか」と反論する。梅岩は答えて「ここに、君主に仕える武士がいるとする。その場合、俸禄を受けずに仕える者がいるだろうか」と反問する。学者は「そんな者がいるわけがない。受けるべくして受ける場合は、欲得とはいわないのではないか」と答える。

ここから、「商人の売買の儲けは、武士の俸禄と同じ。儲けのないのは武士が俸禄を受けずに出仕するようなものだ」と梅岩は主張する。

武士はその働きにより、君主から俸禄を受ける。商人はその働きで、顧客から儲けを得る。武士の俸禄も、商人の儲けも、世の中に提供した価値への対価である、という近代経済学に通ずる考え方に梅岩は到達していた。

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