永江一石さんの回答
有料老人ホームに関しては、以前上場企業の子会社の相談を受けたことがあるのである程度の知見はあります。
「数ある老人ホームの中で差別化を図るためのアイデアを模索している」とのことですが、まず前提として「ターゲットをどの層に絞るか」によって話が変わってくると思います。つまり同じ介護付き老人ホームでも、年金でギリギリ暮らす層か、数千万の入居金を即納できるような層かによって求めるサービスも違いますよね。一概に「地方都市のお年寄り」と十把一からげにはできません。
例えば後者の裕福な層が老人ホームに何を一番求めるかというと「これまで暮らしてきた自宅の近所かどうか」ということなんです。すなわち、住み慣れた場所から離れて土地勘のない所に行くのが嫌なんですね。また、家族が来た時に恥ずかしくない広いロビーがあったり、一緒に食事をとれる綺麗なレストランがあったりする施設に人気が集まる傾向にあります。実際、杉並区の高級老人ホームは入居金だけで5,000万以上かかりますが、そのほとんどが満室でキャンセル待ちなんです。
ホリエモンの言うように、いま介護保険で賄われているような施設は給料も安いし仕事もキツイので、遠くない将来ロボットや外国人労働者に置き換わるでしょう。「手堅いビジネスですが利幅が薄い」というのはその通りなんです。
ただ、そうではないところもたくさんあります。以前ブログにも書きましたがいま日本の資産のほとんどは60歳以上に集中しているので、「死ぬ時にお金を持っていけないから」と大金を払っても入所を希望する高齢者は増えてるんです。おそらく質問者さんは地方の方だと思いますが、関東にはこのような至れり尽くせりの高級老人ホームは出てきてはいますが、交通の便が良いところには土地がないので建設には困るようでした。
挙げていただいたアイデアの中で「工場で調理した食事を提供するシステム」とありますが、これだと料理を工場からテーブルに運ぶまでに冷めちゃいますよね。高級老人ホームなら施設内の調理場でシェフが出来たてを運んでます。
「免震構造の施設」というのは、ご高齢の入居者が果たしていつ起こるか分からない災害時の備えを考えているかというと疑問ですね。もちろんないよりある方が良いですが、そこに多額のコストをかけるのは違和感があります。
「JRの駅前という立地」というのは、家族が訪れやすいという点で十分アピールポイントになるでしょう。
まとめると、サービス内容の差別化の前に、まずは新規建設予定の場所がどういう土地柄なのか徹底的に調査すること。そしてそこにどんな層のお年寄りが多いかによって、コンセプトは変わってくると思います。
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