「中国脅威論」はこうして作られた。新聞報道の巧妙な世論誘導

 

作戦命令を与えられていたのか?

第2に、日経記事がその海上民兵を「軍が指揮する」と形容しているのは、一般論としては正しい。山本が言うように、彼らは、パートタイムとはいえ、法律によって中国の軍制に位置付けられたれっきとした「正規軍人」なのだから、ひとたび有事に召集された場合は軍の指揮下で行動して当たり前である。

しかしだからといって、8月の漁船殺到事件に当たって、軍が彼らに具体的な作戦任務を発令していたかどうかは全くの別問題で、その可能性はゼロである。なぜなら、これも山本が指摘しているように、彼らが軍人として公海上や他国の領海にまで侵入して作戦行動をとるには国際的な戦争法規・交戦規則に従って軍服を着用し民兵であることを示す標章も明示しなければ、国際法違反の単なる無法行為になって、捕虜になることすらできない。あの事件を通じて、そのように組織だった海上民兵の行動は兆候すらなかった。

ところが、そのような説明抜きに「軍が指揮する海上民兵がいた」とだけ書くと、軍によって何らかの任務を与えられた海上民兵が漁民に紛れて襲ってきたかのような印象が醸し出される。

第3に、ではその何らかの任務とは何であったかと言えば、日経によれば、少なくともその一部が「中国公船と日本の領海に侵入した」ことであるかに示唆される。「中国公船と」という表現がまた曲者で、これだと「中国公船と一緒に」、それと共謀してわざと、あるいは一部漁船が中国公船の庇護の下で、「日本の領海に侵入した」かのようにも読めてしまう。

しつこく言うが、一部漁船が「中国公船と日本の領海に侵入したのは事実である。しかしその両者の関係がどうであったのかは「と」だけでは分からない。

実際には、本誌No.852「中国と『一触即発』のウソ。実は関係改善で、日中首脳会談の可能性も」で述べたように、中国公船は「日中漁業協定」に基づく「暫定措置水域」の取り決めに従って、禁漁期が明けて「金儲けしか考えない数百隻の中国漁船の中には尖閣の(日本側が主張する)領海内に乱入する者が出かねないので、それを防ぐために出動」(中国側説明)したのであり、確かに漁船の一部と中国公船が尖閣領海内に入ったには違いないが、それはそこに入った漁船を領海外の暫定措置水域に押し戻すために公船が行動しただけのことであり、別に両者が相携えて入ってきたわけではない。

しかも、尖閣は中国のものであるという中国本来の主張からすれば、日本が主張する尖閣領海に中国漁船が入っても放置して好きにさせておくこともできるのだが、一応、日本の領海主張を尊重して余計なトラブルが起きることを防いだのである。

こうして、日経記事(2)の短い文章に、いくつもの仕掛けがほどこされていて、「中国は怪しい、危ない」と読者に思わせるように仕組まれている。

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