「中国脅威論」はこうして作られた。新聞報道の巧妙な世論誘導

 

危ないのは中国の漁民そのもの

前出の自衛艦隊司令=山本は、そのコラムの中で、「海上民兵は、中国の一般的な漁民そのものである。ただし、ここで誤解してはならないのが、漁民といっても彼らは我々の身近な日本の漁師さんたちのイメージとは程遠いということである」と述べている。

何が「程遠い」のかと言えば、「中国国内、特に都市化の進んでいない地域では、中国自身が『最大の発展途上国』と認めるように、衣食住が足りて法と秩序に安穏とした生活には程遠い地域が多く」、特に貧しい漁村では、「『水滸伝三国志演義に出てくるような刃物を振り回したり、手の届く距離の相手の顔面に向けレンガを投げつけるような激しく派手な喧嘩」が日常茶飯事である。

そういう荒くれ者の中国漁民にとって、「海洋は何者からも邪魔されない生活の全てである。海上に引かれた観念上、概念上の線や区画など彼らの目には映らない。ましてや他国の領海や排他的経済水域、漁業規制などは他人事である。官憲による厳格な取締り、或いは自分たちと異なる集団によって物理的に操業ができない限り、自由に操業する権利があるものと信じている。国内の取り決めや国際約束を順守し法と秩序に基づく生活が長期的な繁栄につながると考える人々とは異なる考えの持ち主である」。

これには中国政府も手を焼いていて、2012年12月に韓国の排他的経済水域において韓国海洋警察による法執行活動に対し、違法操業中の中国漁民が抵抗して韓国海洋警察官を刺殺する事件が起きた際には、『人民日報』傘下の国際メディア「環球時報」が社説で次のように述べた。

中国は世界最大の漁民グループを有し、海岸線も長く、人口も世界一である。しかし、中国近海の漁業資源は枯渇し、近年の操業エリアは公海へと拡大している。漁民は漁具を購入するための元手を回収しなければならない。漁民に漁業規律を厳格に守らせることは中国近海といえども難しく、中国政府が宣伝教育により彼らに黄海上の中韓漁業協定を厳格に順守させることは容易なことではない。漁民はコストを回収し利益を上げるために様々なことを考えており、考慮の中には漁民自身による身の安全も含まれている。

中国人は一般的に韓国人よりも貧しく、中国人の教育レベルは韓国人ほど高くない。中国の漁民に外交官のような品の良さを求めることは現実的ではない。

山本はこれを引用した後、次のように結論づけている。

このような中国漁民の現状を踏まえると、中央軍事委員会のコントロールの下に国家の意思に基づき活動する海上民兵よりも、私利私欲で動いている自由気儘な中国漁民こそ、国際公共財(グローバルコモンズ)である海洋にとって最も懸念すべき存在である。

これが正しい結論である。日経記事のように、軍の意思で動く海上民兵という怪しい武装グループが領海侵犯を繰り返しているという現状認識に立てば、これを海上保安庁、それで間に合わなければ自衛隊の力で抑えつけるしか方法がないということになる。実際、日経は日本国民にそう思い込ませようとしてこんなデマ記事を載せている。しかし、金儲けしか頭にない、ならず者のような中国漁民が韓国や日本の漁場を侵し領海侵入さえ厭わないということが東シナ海・黄海における不穏の主要な問題であるならば、日韓中による共同の漁業資源管理とその遵守のための海上保安当局の相互協力が喫緊の課題となる。

日経は、そういう本当の問題に目を向けさせることなく、徒に中国との軍事対決を煽っている。

 

高野孟のTHE JOURNAL』より一部抜粋
著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。
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