日本の技能は凄い。ペリーも目を見張ったメイドインジャパンの底力

 

伝統技術と現代技術のつながり

この予言から130年後、1983年にボストンで開催された日本の人間国宝展で、彫金の花器を食い入るように見ていたアメリカ人青年は、こう呟いた。

「こんな精巧な伝統技術をバックグラウンドに車を作るのだから、(アメリカは日本に)かなわない」

日本の自動車がアメリカでの地位を確立し始めていた時期であったが、その頃アメリカで流された日本車のTVコマーシャルで記憶に残っているものがいくつかある。一つは、ボンネットと車体との間の数ミリの隙間にパチンコ球をころころと転がして、「あなたの車でこれができますか?」とアメリカ人が問いかけるというものだった。

もう一つは、休日の早朝、日本人ビジネスマンらしき男性が、ゴルフバッグを持って車に乗り込む。エンジンをかけても、かすかな音しかしない。「しーっ」と人差し指をたてて、近所を起こさないように静かに出かけていく、という場面である。当初アメリカに輸出された日本の車は小型大衆車が中心だったが、その価格や性能もさることながら、「丹誠込めた作り精巧な出来映え」というイメージが消費者にアピールしたのである。

人間国宝展でアメリカ人青年が日本の「精巧な伝統技術」から、まず車の事を思い浮かべたのも、こうしたイメージのためである。しかし、その直観はあながち間違いではない。我々日本人は、明治維新や敗戦で歴史が断絶したものと思いこみ、現代の技術と伝統技術の間に何か関係があるなどとは想像だにしないが、実は現代日本の技術力の根底には、ペリーらを驚かせた江戸時代やそれ以前からの蓄積があるのである。

奈良の大仏から、車、パソコンまで

たとえば、自動車はエンジンを始め、主要部品のほとんどは鋳造によって作られる。鋳造は金属を溶かし、鋳型に流しこんで所要の形に造る技術だが、本誌272号で紹介したとおり、今から1,250年も前に作られた奈良東大寺の大仏は鋳造で作られている。高さ16メートル、重量250トンもの世界最大の青銅像だが、当時の日本の鋳造技術は世界的なレベルに達していた。飛鳥、奈良、京都などの古寺に数多く残されている金銅仏(銅に金メッキした仏)では、精密鋳造技術により細やかな芸術表現がなされている。

寺院の鐘や梵鐘は真鍮(銅と亜鉛の合金)の鋳造で作られた。美しい余韻を残すには、形状や肉厚に厳密な仕上がりが必要であった。江戸時代には庶民層にまで普及した茶道で使う茶の湯釜は鉄の鋳造品で、「重いものに名品なし」と言われるようにぎりぎりの肉厚にして、表面には花鳥風月の精巧な図柄が浮き彫りにされていた。

現代では車の燃費向上のために、軽いアルミ合金の部品が使われるようになっているが、これは融点の低いアルミ合金を鉄製金型に高圧で流し込むダイカスト法という新しい鋳造方法が用いられている。最近のノートパソコンなどの筐体用に使われだした軽くて強いマグネシウム合金にもこの方法が適用されている。奈良の大仏から、現代の車やパソコンまで、脈々と鋳造技術が継承され発展しているのである。

同様に、江戸後期の伊万里焼などに見られる磁器技術は、現代のセラミック電子部品などにつながり、漆の技術は合成樹脂技術として開花し、磁気テープや半導体封止材料などに適用されている。

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