かつて日本に捨てられた日本人。いま朝鮮半島有事ならどうなるか

 

「日本はなぜ救援に来てくれないのか」

朝から夕方まで粘って、所員はようやく「座席が余ったらあなた方の予約を入れます」と言ってくれた。この時、英国空港、スイス航空、イタリアのアリタリア航空などでも、同じ状況だった。田中は、この国際社会の激しい現実を見て、こう思った。

それが、現実なんです。しかも、ほかのヨーロッパの国の人をドイツ人の次に優先します、というわけですから、日本という国は、ドイツから見てもその程度の扱いなんだ、とわかりました。

 

それとともに、やっぱりJALが来てほしいなと思いましたね。だって、ほかの国は、はっきりと「国として救援機を出すんだ」と言っているわけですからね。日本はなぜ救援に来てくれないのか、と正直、思いました。
(同上)

夫から事情を聞いた妻の玲子も、暗澹たる思いになった。

ほかの国はそうやって自国の国民を一生懸命、助けようとするけど、日本は自国民を助けてくれない、と切実に感じました。
(同上)

翌日、早朝から一家は空港に行った。空港の前まで人があふれていた。だいぶ待ってから、ようやく建物に入ることができた。チケットは持っていたが、予約のないドイツ人や他のヨーロッパ人が駆けつけたらすぐにキャンセルされる。昼近くになって、ようやく「もう(ドイツ人は)来ないから、いいでしょう」と言われた。

しかし、その後も厳重な出国手続き、荷物チェックを受け、搭乗待合室から、待機しているルフトハンザ機を見て「これで大丈夫だ、となった時には、本当に目眩(めまい)がしました」と田中は語っている。

チケットを持っていた田中一家は運が良かった。他の在留邦人は、脱出する手立ても見つからないまま、その17日夜8時、イラク空軍からの「48時間後、イラン全土上空を『戦争空域』に指定し、民間機も攻撃を受ける可能性がある」との発表を聞いた。それまでに、なんとかイランを脱出しなければならない

翌朝、ほとんどの在留邦人は空港に駆けつけたが、どこのカウンターでも返ってくる返事は「ノー・ジャパニーズ」だった。絶望に包まれた中で、トルコ航空が日本人の救出に来てくれる、という情報が流れた。伊藤忠・イスタンブール事務所長の森永堯(たかし)がトルコの首相に掛け合ってくれたのである。

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