ヒアリは本当に害なのか? 加熱する外来種排斥に生物学者が反論

 

さて、大騒ぎのヒアリはどうだろうか。環境省は、アルゼンチンアリ、アカカミアリ、ヒアリを特定外来生物に指定して、生きているものに限り、輸入、飼育、譲渡、放虫を禁じている。この中でアルゼンチンアリとヒアリはIUCN(国際自然保護連合)により、「世界の侵略的外来種ワースト100」に選定されている。

アルゼンチンアリはすでに中国地方などでは定着し、アカカミアリは沖縄本島、伊江島、硫黄島に定着している。この2種は在来のアリを駆逐したり、在来昆虫の卵や幼虫を捕食したりして生態系に大きな影響を与えるが、人に対する害はそれほどでもない。アカカミアリに刺されてアナフィラキシー・ショックを起こした例はあるが、噛まれたり刺されたりして死んだ人はいないようだ。

それに対し、ヒアリは人や家畜に対しても大きな害を与え、刺されて死に至ることもあるようだ。尤も、大群に襲われて、大量に刺された場合はともかく、数頭に刺されたくらいで、死ぬことはないと思う。ヒアリは高さ数十センチ、深さ70-80センチほどの、最大数十万頭ほどの個体数を擁する巣を作り、そうなると大いに危険であるが、貨物に紛れて入ってきた個体は女王でない限り、しばらくすれば、子孫を作らず寿命が尽きるのであまり神経質になることはないだろう。

問題は女王が人の目につかないところで巣作りを始めて、気が付いた時には巨大な巣になっている場合だ。牧場とか、放置された草原とか、都会であれば、舗装道路の亀裂とか、舗装されていない巨大施設の建築予定地とかが危ないと思う。「関係者以外立ち入り禁止」という看板を立てて放置している間に、気が付けばヒアリの巣ができていたということにならなければいいけどね。

アルゼンチンアリは建物の隙間などにも巣を作るので、見つけづらいがヒアリの巣は大きくなると目につくので、羽蟻が発生する前に全滅させれば、分布が拡がることはない。一度、定着して巣が広い範囲から見つかると完全駆除は難しくなるので、水際対策が最も重要である。女王は1日に1000以上の卵を産むので、巣はあっという間に大きくなる。但し日本はこの種には寒すぎるので、九州や沖縄、ヒートアイランド状態の都会ならばともかく、冬、零下になる日が続くような地方に定着できるかどうかは定かでない。

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