【書評】里山には何かいる。恐怖に満ちた、人里と深山の境界

 

やはり「心霊スポットは危険だ。使われなくなった施設建物、廃集落や閉鎖された坑道などに多い。その場所を生活圏とする人々が、公的機関などしかるべきところに訴えて撤去すればいいはずだが、立ち入り禁止の看板やおざなりのストッパーを置いただけで、存在をそのままにしているのはなぜだ。

その理由が明かされているが、それが本当かどうかはともかく、好奇心で触れないほうがいい、ということである。廃墟の病院に探検にいった兄弟の話もリアリティがある。一緒に入ったはずの弟が、弟ではなかった。弟は恐くて途中で兄について行けなかった。兄の肩に手を置いたのは、顔のない誰かだった。

山に入るのを控えるべき祭の日に、しかも女が入るのは禁忌とされる日に、祠の供物に気づいていながら、せっかくの休みに収穫なしではいやだと、里山に踏み行った虫好きの女性。ウスバキトンボの尋常ではない大群に遭遇する。幻想的な光景だが、名状しがたい畏れから心がざわつき、見惚れている余裕はなく、トンボの群れと一緒に山を下りた。彼女は神様の警告だったと思っている。

里山を歩いていると、不意に空気が変わる。周囲を押し包む雰囲気が変わる。強く生臭い獣臭、肌を刺すような視線、一歩も踏み出せない強力な威圧感、何もそこに見えないのに……。やだやだ。寝る前に読んでいたのだから愚かであった。「野山に入る者には、何か怪しいことに気づいてもその場では口に出さないという申し合わせ事項みたいのがある」らしい。これは大事なことだ。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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