アニメ製作現場の窮状が改善されない「クールジャパン」の現実

 

過酷な製作現場の現状

一方、アニメ製作現場の実態については対照的な報道が散見されますね。産業全体の好景気とは裏腹に、過酷な労働環境への問題提起が各所でなされています。(*2)(*3)(*4)この類の話題は、製作現場で働いていなければ業界関係者ですら見て見ぬフリをしていたようなものです。いや、おかしいとは思いつつそれが現実だと受け入れていた、と言った方が正しいかもしれません。

JANiCA(一般社団法人 日本アニメーター・演出協会)が今年3月に発表した「アニメーション製作者実態調査報告書2015」(*5)によると、アニメ制作者の平均年収はその他の民間企業で勤務する労働者のそれより81万円も低い数字を示しています。作業時間は1日平均8時間から12時間の層が6割以上を占め、一ヶ月平均の休日の数は「4.63日で、中央値の4日とほぼ合致」します。全国平均値と比べると月々の休日が約6日少ないことになります。

給与水準は低く、一日の作業時間が長い。おまけに休日が少ない。報告書内の「7.2.1」に記載されている労働環境への自由回答欄には、当事者たちが指摘する業界の問題点が延々と並んでいます。

それでいて、アニメーション制作者の大半は、待遇面での不満を抱いていても業界から足を洗う意志がありません。「今後、どのように仕事をしたいか」という質問への回答では、実に6割以上が「働ける限り、アニメーション制作者としての仕事を続けたい」という選択肢を選んでいます。「現在の仕事を続けている理由」が、「この仕事が楽しいから(回答者の65.1%)」そして「作品を通じて人に感動を与えることができるから(同38.1%)」です。

確かに、同じ質問に「お金を得るため(60.9%)」と答える方も半数以上います。しかし先述の年収水準を見れば、それが余裕のある回答であるとは言えないでしょう。同時に「自分の才能や能力を発揮するため(同30.2%)」または「絵を描く仕事を追求したいから(同26.5%)」という回答項目が手堅く追随してもいます。

これらの傾向を私個人の目から総括させていただくと、アニメーション制作者は「自分にしかできない特有の仕事をしている」という自覚があると言えるでしょう。特殊な技能や感性を重んじる仕事であると捉えられていることから、「金銭的対価」と「仕事のやりがい」とが補完し合っている関係にあるのです。

ちなみに報告書の附表を見ると、このアンケートに答えた関係者のうち、プロデューサー職に就いている全29名の平均年収は542.0万円と記されています。配偶者の有無は半々で、6割以上が子供がいないと回答している方々ですが、彼らの平均年齢は38.8歳。個人的な感覚から言わせてもらえば、その他の業界と比べてなんとも夢のない話だとしか言いようがありません。

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