マンション管理
この1年の動き──IT技術の導入
昨年のメルマガ(第36号)では、「マンション管理の需要が多様化する一方で値下げ圧力が強まっているのは、過剰満足の顧客が存在することを示す兆候である」と指摘しました。そんななか、日本デジコムはインターネットに接続した端末でマンション管理業務の効率化を、穴吹ハウジングや大京などは、人工知能(AI)を活用したサービスの開発に乗り出しました。これは、いずれもマンションの管理人不足に対応しようとするもので、過剰満足の顧客をターゲットとした、置き換えのイノベーションが根づこうとしているシグナルといえます。
基礎知識──マンション管理のウラ側
マンション管理には情報の非対称性(売主や管理管理会社が知っていて管理組合が知らない情報)が存在し、結果的にマンション管理組合が損をしている場合が少なくありません。具体的には、マンションの売主である不動産会社と管理会社(多くの場合、売主の子会社)が儲かるようにあらかじめ仕組まれているのです。たとえば、売買契約書には「売主が指定した管理会社に管理を委託する」との旨が記載されています。その結果、相手のいいなりに多額の委託費を請求され続けることになるのです。では、どうすればいいのでしょうか。ビジネスモデルを成功させる4つの要因について考察します。
・顧客価値の提供
マンション管理における顧客は、マンションの住人、つまり管理組合であるべきです。
彼らが片づけようとしている用事は「マンションの資産価値を維持向上させる」ということです。
・利益方程式
主な支出項目は、外部の管理会社に支払うマンション管理費と内部の管理組合で積み立てる修繕積立金の2つです。他人任せにせず、自分たちが主体になって適切に管理することが必要です。
・カギとなる経営資源
カギとなる経営資源は、マンション管理の主体となるべき管理組合の役員です。もっとも、現実的には役員に立候補する人はほとんどいないため、輪番制になっている場合が多くなっています。
・カギとなるプロセス
カギとなるプロセスは、売主によって作られたバリューネットワークではなく、自立的なバリューネットワークに身を置くことです。具体的には、管理規約、管理業務委託契約、管理費の支払いや修繕費に積み立て、長期修繕計画などを現実に即して見直すことです。
リスク管理も重要です。まず、マンションが立地している土地が過去にどのような利用をされていたかを調べたうえで損害保険商品を選びます。また、地震に備えるために基礎構造を確認し、地震に対応したエレベーターを備えます。飲料水の確保も欠かせません。さらに、火災から生命や財産を守るために防災管理体制を整え、いざという時の資金の調達先を確認しておくことも必要になるでしょう。
業界概観──主なプレイヤーと市場動向
大京アステージ …管理戸数42万6千戸。
日本ハウズイング …管理戸数42万5千戸。
東急コミュニティ …管理戸数32万4千戸。
三菱地所コミュニティ…管理戸数29万8千戸。
長谷工コミュニティ …管理戸数26万戸。
マンションの管理戸数は漸増傾向を示すなか、各プレイヤーにとって、なり手が少ない管理人の確保が課題となっています。
変化のシグナル──過剰満足の顧客が存在することを示す兆候
この業界の顧客(マンション管理組合)はどのような用事を片づけようとしているのでしょうか。彼らが一番関心がある用事はやはり「マンションの資産価値を維持向上させる」ということでしょう。
では、そんな顧客は現在のマンション管理を十分に消費していないのでしょうか、満たされていないのでしょうか、それとも過剰満足なのでしょうか。顧客からの値下げ圧力が強まっていることは、明らかに過剰満足の兆候です。そんななか、プレイヤーのなかにはIT技術を活用したサービスで顧客を獲得しようとする動きがあります。これは、主要顧客をターゲットとする専門的企業の出現であり、過剰満足の顧客をターゲットとした置き換えのイノベーションが根づこうとしているシグナルといえます。
競争のバトル──民泊をめぐる動き
「民泊」というイノベーションがこの業界を震撼させています。この民泊をめぐっては各地でトラブルが発生しています。その原因の一つはルールが明確になっていないこと。そうした事態を踏まえ、国交省は、マンション規約に民泊の可否を明記するように業界団体などに要請しました。一方で、京王電鉄は東京大田区に民泊マンションをオープンさせました。
ここで民泊とはどういうビジネスなのか、資源・プロセス・価値基準の理論という「レンズ」を通してかんたんに考察しておきます。利用できる資源は、マンションの空き部屋、流通チャネルとしての民泊予約仲介サイトなどです。プロセスは、マンション規約の見直し。ポイントは、住民の同意を得ることと、民泊で得られた収入を全額その部屋を貸した個人のものとするのか、一部を管理組合に分配するかを決めること。そして、価値基準は、民泊で得られた収入で、マンション管理費や修繕積立金を賄うことです。
今後急増する訪日外国人の受け皿が不足することは確実です。いずれにしても、目端の利く管理組合は民泊を追い風にして、自分たちのマンションの資産価値を維持・向上させていくことになるでしょう。
戦略的選択の評価──マンション規約の定期的な見直し
民泊を受け入れると決めた管理組合はどのような点に留意すればいいのでしょうか。
ほとんどの管理組合にとって、民泊は先行きが見通せない不確実な情況にあるといえます。しかも、受け入れる外国人は、日本人とは異なる文化や習慣というものを持っています。そういった状況では、創発的な力を活用して、適切な市場やビジネスモデルを探すことが得策です。管理組合にとって、それはマンション規約の見直しを意味します。
バリューネットワーク──利用する民泊予約仲介サイト──はどうでしょうか。京王電鉄の場合は、仙台市にある百戦錬磨というサイトを通じて予約を受け付けています。もちろん、エアビーアンドビー(Airbnb)を使うのも一つの手です。しかし、それでは顧客が世界に拡散してしまいます。場合によっては、台湾や香港など地域を限定するのも一つの手です。地域を限定すればその国での知名度が上がるだけでなく、彼らの習慣などの顧客情報が蓄積され、マンション規約の効果的な見直しにもつながるからです。
いずれにしても、民泊については、ハーバード・ビジネス・スクールのクリステンセン教授が指摘するように「標準やルールが整備され、多様な企業が各顧客層の最低限の要求に十分応えらえる製品・サービスをつくれるようになる」ことになるでしょう。
業界サマリ:マンション管理
- 変化のシグナル:IT技術を活用したサービスで顧客を獲得しようとする動きがある。
- 競争のバトル:ルールが整備されれば、民泊は管理組合にメリットをもたらす可能性がある。
- 戦略的選択:民泊を受け入れる管理組合にとって注目すべき重要は選択は、マンション規約の定期的な見直しである。