投資すべきか、否か。不動産関連業界は予測不能な激変の時代へ

 

住宅設備

この1年の動き──海外展開への動き

昨年のメルマガ(第36号)では、「優位性を維持しようとするプレイヤーは、リフォーム市場や海外市場に向かうことになる」と指摘しました。この流れに沿うように、パナソニックは、「パナホームと海外・リフォーム中心に」という方針を打ち出しています。また、LIXILは、南アフリカの住宅設備企業を完全子会社化しています。

業界概観──主なプレイヤーと市場動向

・サッシ  …LIXIL:売上高1兆8千億円。
       YKK AP:売上高3千4百億円。

・キッチン …LIXIL。
       タカラスタンダード:売上高1千8百億円。
       クリナップ:売上高1千1百億円。

・バスルーム…LIXIL。
       TOTO:売上高5千7百億円。
       パナソニック:売上高1兆6千億円。

・衛生陶器 …TOTO。
       LIXIL。

・給湯器  …リンナイ:売上高3千2百億円。
       ノーリツ:売上高2千2百億円。

・シャッター…三和ホールディングス:売上高3千7百億円。
       文化シャッター:売上高1千4百億円。
       三協立山:売上高3千三百億円。
       不二サッシ:売上高9千80億円。

・市場動向

国内の新築需要は停滞する一方で、リフォーム市場は中期的には成長が見込まれています。

変化のシグナル──過剰満足の顧客が存在することを示す兆候

この業界(リフォーム市場)の顧客はどのような用事を片づけようとしているのでしょうか。彼らは「住宅の機能性を改善したい」「暮らしを楽しく豊かにしたい」といった用事を片づけようとしています。

では、そんな顧客は現在の住宅設備を十分に消費していないのでしょうか、満たされていないのでしょうか、それとも過剰満足なのでしょうか。どんな用事にも、機能的、社会的、感情的な側面があり、どれが重視されるかは用事によって異なります。前者の用事は機能的、後者の用事は感情的な側面を重視しています。そして、この業界の顧客は前者の用事を重視する傾向にあります。その一方で、リフォーム市場は伸び悩んでいます。このことは、プレイヤーが提供する住宅設備の機能性は顧客の要求水準に追いついていることを示唆しています。

競争のバトル──非対称性を探し出す

この業界には、新築需要とリフォーム需要という2つの市場があります。では、それぞれにどのような特徴を有するのでしょうか。資源・プロセス・価値基準の理論という「レンズ」を通して考察します。

まず、新築需要を手がけるプレイヤー。彼らが利用できる資源としては、流通チャネルとしてゼネコンやハウスメーカーなどがあります。プロセスは、規格化された製品を大量生産すること。価値基準は、規模の生産性を働かせてコスト削減することです。したがって、数はさばける一方で、製品の差別化はむずかしく価格値下げ圧力が強まっています

次は、リフォーム需要を手がけるプレイヤー。彼らが利用できる資源としては、地域の工務店があります。また、場合によってはブランド力を生かすことができます。顧客からの指名買いが期待できるからです。価値基準は、高採算の案件が多い工務店ルートに注力することです。

少子化が進展する国内市場は、新築需要だけでなくリフォーム需要の先細りが懸念されています。そういった意味では、パナソニックが打ち出した「パナホームと海外・リフォーム中心に」という方針は理にかなっているといえます。

戦略的選択の評価──無消費者の獲得

国内では過剰満足の顧客が存在することを示す兆候があるものの、都市化が進んでいるアジアの新興国などはそうではありません。だからといって、国内で成功した戦略をそのまま海外に持ち込むという、意図的戦略にしがみつく姿勢は得策ではありません。なぜなら、日本と海外では生活習慣が大きく異なるからです。

海外の新興国には、住宅設備を消費したくても消費できない多くの無消費者が存在しています。彼らは、ほどほどの機能でも満足します。なぜなら、それに代わるのは何もない状態だからです。いずれにしても、彼らがどのような用事を片づけようとしているのか理解するのが重要でしょう。無消費者をターゲットとした新市場型破壊的イノベーションが根づこうとしているシグナルは、すでに片づけようとしている用事をより便利に片づけるのに役立つ製品やサービスが登場することにあるからです。

業界サマリ:住宅設備

  • 変化のシグナル:国内のリフォーム市場は伸び悩んでいる
  • 競争のバトル:業界が置かれている状況からすれば、海外進出とリフォームへの注力は妥当な戦略といえる。
  • 戦略的選択:海外展開するプレイヤーにとって注目すべき重要な選択は、創発的な力を促す自由度を生かして無消費者を獲得することである。

【参考文献】

不動産仲介

 ・大澤茂雄『図解いちばんやさしく丁寧に書いた不動産の本』(成美堂出版)

 ・銀行vs不動産業界に変化の兆し?

 ・不動産仲介に群がる銀行 売買手数料「二重取り」

 ・ヤマダ電機、不動産仲介の新会社

 ・高級タワマンに節税マネー、不穏な流入

 ・アパート融資、異形の膨張 16年3.7兆円

マンション管理
 ・クレイトン M.クリステンセン『C.クリステンセン経営論』(ダイヤモンド社)

 ・橋本正滋『マンション管理虎の巻 マンション理事は知らないと損をする』(彩図社)

 ・マンション管理 コスト4割減 日本デジコム

 ・AIでマンション管理 穴吹ハウジング、NEC系と実証実験

 ・大京、マンションにAI管理人

 ・民泊可否、マンション規約に明記を 国交省が要請へ

 ・京王電鉄、東京・大田区に民泊マンション 22日オープン

 ・民泊無断営業で賠償命令 大阪地裁、元マンション所有男性に

 ・無断民泊 差し止め提訴 ミナミのマンション「管理規約に違反」

住宅設備

 ・『リフォーム産業大予測 リフォーム・リノベーション市場の現況やトレンド、半歩先の経営戦略のヒント 2017』(新建新聞社)
 ・「パナホームと海外・リフォーム中心に」パナソニック専務

 ・パナソニック、タイで住宅設備のショールーム 来年ベトナムにも

 ・LIXIL、南アの住宅設備企業を完全子会社化

全体:

 ・『会社四季報 業界地図2017年版』(東洋経済新報社)

 ・クレイトン・M・クリステンセン/スコット・D・アンソニー/エリック・A・ロス著 玉田俊平太解説 櫻井裕子訳『イノベーションの最終解』(翔泳社)

image by: Shutterstock

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