突然の「エルサレム首都」発言でトランプは誰を試したかったのか

2017.12.11
 

トランプ政権内で重要な役割を担うと言われる、ユダヤ教徒で娘のイヴァンカ氏の夫クシュナー大統領上級顧問が、ティラーソン国務長官ら中東情勢悪化を懸念する立場の意見を押し切り、今回の「首都認定」を推進したとも言われるが、その真相は分からない。ネタニヤフ首相とも近く、トランプ政権による中東和平実現を目指すクシュナー氏が、わざわざ中東に波紋を広げるような決定に果たして賛成したのか疑問も残る。

それよりも、歴代大統領中最悪の支持率となったトランプ氏が、彼自身の「手法」として、ユダヤ教徒やキリスト教福音派など親イスラエル派の支持を得るための国内向けパフォーマンスに出た、と考えるほうがこれまでの行動から見ても腑に落ちる。

トランプ氏は、「首都認定」というブラフをぶち上げはしたが、大使館移転については、ティラーソン国務長官は決定を先送りする旨の発言をしている。

ブラフをかましてあとは知らぬ顔、というのは彼の常套手段でもある。彼は、実際に何らかの行動が伴うわけではない「首都認定」発言だけなら、その衝撃は自らの手腕で吸収できると考えたのかもしれない。しかし、だとしたら彼のその目論見はあまりにも甘い判断であったと言わざるをえない。

一方、トランプ氏の「勝算」はイスラム諸国の反応に見て取れる。今回の発言に対し、サウジアラビアやヨルダンなど中東各国のほか、トルコ、イラン、インドネシアなども非難や懸念を示した。しかし、イスラエルとの国交断絶の可能性を示唆し、強い口調でこの決定を非難したのはトルコのエルドアン大統領だけだった。ひと昔前なら考えられないほど、イスラム諸国はトランプ氏の決定に対して、あるいはパレスチナに対して冷淡とも言える反応しかしていない。

シリア内戦やイエメン内戦をめぐる中東情勢のなか、イスラム諸国にとってパレスチナの問題はもはや、大きな関心を寄せる話ではないのだろう。それよりも、イランと対立するサウジアラビアにとっては、パレスチナへの共感よりも、同じくイランと対立するイスラエルが「敵の敵は味方」というに近い存在になりつつあるとも言える。

イスラエルのネタニヤフ首相はトランプ氏の発言に対し、「歴史的な日だと称賛した。一方、パレスチナ自治政府のアッバース大統領は「和平への努力を台無しにすると非難。しかし、この発言以前から、実際にはパレスチナの和平は前進でも停滞でもなく、後退し続けているのが現状だ。

現在、東エルサレムには約20万人、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区では約40万人のユダヤ人入植者が暮らし、占領の既成事実化が進められている。将来の独立国家樹立を目指すパレスチナの土地は、次々と建設される入植地によって今も減少を続ける。

自治区各地に存在する入植地は、それ自体がイスラエルの出城」の役割も持つ。点在する入植地の間に新たな入植地を作り、連結されて巨大化したその存在は、パレスチナ人のイスラエル領内への侵入を防ぐ分離壁とともに、その行動を極端に制限する巨大な盾となっている。

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