1週間、徹夜なしの働き方を提案
遅い時間に仕事を始めて、お菓子をつまんだりしながらダラダラと夜中まで続ける。そんな生活を続けていると、アシスタントの子たちが太り出して、見るからに不健康そうになっていく。しかも徹夜するからいつも睡眠不足。当時はせっかく仕事を覚えても、「つらい」と言ってやめていくアシスタントが多くて、また次の子にいちから教えなくてはならない。本当にもったいないことをしていた。
“業界の慣習通り”の働き方を続けながら、これでいいのだろうかという疑問を持つようになった。どう見ても不健康だし、自分にとってもアシスタントにとっても、いい働き方とは思えない。そこで7~8年間経ったあるとき、「来週、実験的に1週間徹夜しないルールを作ってみないか。朝早く来て、集中して作業して終わるかどうか、やってみよう」と言った。アシスタントのみんながすんなり賛成してくれたので、やってみたら案外うまくいった。作業がはかどり、夕方帰っても十分仕事が間に合うことが証明できたのである。
1週間試した結果、アシスタントのみんなも「このほうがいい」と納得してくれたので、それ以来、9時半出社を原則とした。規則正しい生活になったおかげでアシスタントが病欠しなくなり、辞めないで長く続ける子が増えた。そうすると技術が蓄積されていって、手が早くなる。結果、さらに仕事を効率化して早く作業できるようになったり、新しい技術を覚えて自分の仕事に生かすことができたり、副次的な効果が大きいと気が付いた。この「働き方改革」は、私にとってもアシスタントにとっても良いこと尽くめだった。机の上に、お菓子はもう積んでない。食べたい人は自分で買って食べている(笑)。
「マンガ家は精神的にも体力的にもきつい仕事」という先入観があって、だからお菓子を与えてケアするとか、耐え抜いた人間しか成功しないとか、妙な方向に考えがいってしまう。そうではなく、健康的な生活環境を整えてあげれば、自然と集中して仕事するようになる。そもそもマンガ家というのは、毎日徹夜しないと終わらないほどの作業量があるわけではない。ほとんどの人が惰性でもって、だらだらと仕事をしているだけなんだ。仕組みさえ整えれば公務員のように9時~17時で働くスタイルが確立できると、実際にやってみてわかった。