商社マンからフリーターへ。哲学者・小川仁志を転落へ導く天安門

2018.03.12
 

私の人生に大きな転機が訪れたのは台湾です。1994年の台湾はまさに民主化運動真っ盛りといった様相を呈していました。政治の季節です。それまで国民党に虐げられてきた野党民進党のリーダーが、初めて要職である台北市長選で勝利しそうだったからです。貧しい家庭の出でありながら、苦学して弁護士となり、人権派弁護士として民主化運動にかかわってきた陳水扁でした。彼は見事当選し、その後、総統にまで上り詰めます。のちにスキャンダルに巻き込まれて失脚しますが、彼が英雄であったことは間違いありません。

しかし、最初のうちはそんなことに当然興味も何もなく、語学を必死で勉強するほかは、おいしい台湾の料理を食べ歩いたり、休日はゴルフをしたりして海外生活を楽しんでいました。相変わらずイベント好きだったので、学校でもいろいろなことを取り仕切っているうちに、模範学生として表彰もされました。勉強で模範ならもっと嬉しかったのですが、なんでも評価されるのは嬉しいものです。ますますイベントを取り仕切るのに精を出しました。

ところがひょんなことから熱い台湾の民主化運動に私も巻き込まれてしまったのです。実は、今日は政治を語らないという名前の「今天不談政治」というバリバリの政治番組があって、そこで国民党の大物政治家と日本の外務省の人が話すことになっていました。しかし、独立を掲げる野党が選挙に勝ちそうだということで中国が圧力をかけてきていたため、外務省の人が急きょテレビに出られなくなったというのです。

そこで民間の面白い奴はいないかと学校に問い合わせがあり、「模範学生」の私が出ることになったというわけです。相手は日本通で日本語も話せるとのことだったのですが、頑張って覚えたての中国語を交えて話しました。そのとき私が軽い気持ちで、台湾は謎の島だといったのですが、それが間違って迷える島と字幕が出てしまったのです。私の発音が間違っているわけではなくて、謎の島と迷える島は発音が同じだったのです!

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