没落するMicrosoft、「失われた10年」の原因は何だったのか?

 

その結果は惨憺たるもので、インストールが必要なActiveX は肥大化し、生産効率もはるかに落ちてしまいました。当初よりもはるかに多くのエンジニアを抱えていたにも関わらず、シンプルなワープロを完成させるまでに、1年以上の時間が必要となったのです。

プロジェクトが進捗し、会社の中での存在感が大きくなるに従い、Microsoft Officeグループから「Officeビジネスを脅かす製品を作ることはけしからん」という声が聞こえるようになりました。

当然といえば当然の話です。その時点の私は、「いつかはアプリケーションをパソコンにインストールする時代は終わる」と確信していました。つまり、Microsoft自身が作らなくても、どこか他の会社が作ってしまい、それが Microsoft Officeの強力なライバルになるのだから、それよりは社内で作った方が良いという考えです。

しかし、残念なことに私の考え方は認められませんでした。最後には、ブライアンがOfficeグループの副社長と会社の首脳陣の前で交渉し、「Netdocsは、Microsoft Officeと同等の機能は提供しない」というとんでもない約束をしてしまったのです。Netdocsは当初のビジョンのかけらも持ち合わせないプロジェクトになってしまったのです。

その後、いくつかのベンチャー企業(UpstartleとXL2Web)がブラウザ上で動くオフィスアプリケーションを作り始め、それらの会社を Googleが2005年~2006年に買収する形でまとめたのがGoogle Docs(現在の Google Drive)です。 Microsoftがブラウザ上で動くオフィス・アプリケーション(Office365)をリリースしたのは、さらに遅れて2011年のことです。

確かに、Officeグループの行動だけを見ると、クリステンセンの指摘通りです。既存の顧客たちは、ブラウザ上で動くオフィス・アプリケーションなど欲しがっていなかったし、やるべきことは、既存のアプリケーションをより高機能に、より使いやすくすることでしかなかったのです。

しかし、数は少ないとは言え、ブラウザ上で様々なアプリケーションが動く時代が来ることを、そしてそれが Microsoft Officeを脅かす存在になることを直感的に理解していた人たちはMicrosoft社内にもいたし、(途中で方向が変わってしまったとは言え)Netdocsというプロジェクトも立ち上げることが出来たのです。

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