三番目は少し分かりにくいのですが、会社には「どこで勝負する会社なのか」という会社の「魂」のようなものがあり、そこから逸脱した行動は非常に取りにくいのです。
Microsoftは、OSや「Windowsアプリケーション」を作って勝負して来た会社なので、C や C++ を使いこなすエンジニアはたくさん抱えていましたが、HTMLや JavaScriptを使いこなせるエンジニアはそれほど多くありませんでした。その意味では、HTMLと JavaScriptだけでアプリケーションを作るよりは、全てをC++で開発して、ActiveXコントロールに詰め込んでしまった方が、理にかなっていたのです。
これは、それまでハードウェア作りで勝負をしていた家電メーカーや携帯電話メーカーが、勝負がソフトウェアに移った途端に極端に競争力を失ったのを見ても分かる通り、かなり本質的なジレンマであり、経営陣が強い危機感を抱いて痛みを伴う改革をしない限りは、解決が難しい問題だと思います。
四番目は、すごく人間的な話ですが、「Outlookを出した後に、自分の価値を経営陣にアピールしたかった ブライアンが、Netdocsプロジェクトに目をつけて、必要以上に巨大なプロジェクトにしてしまった」とか、「Officeグループが Netdocsグループをライバル視してしまい、様々なロビー活動をした」などがそれに当たります。
会社は大きくなればなるほど、会社全体のことよりも自分の出世のことを重視する人たちが上層部を占めるようになるため、このケースのような痛みを伴う(つまり、誰かが出世競争で損をする)改革がしにくくなります。
特に、当時のMicrosoftのように、稼ぎ頭だったWindowsグループとOfficeグループの政治力は絶大であり、彼らの不利益になるようなことをすることは、とても難しかったのです。
つまり、会社として、たとえ「破壊的イノベーション」がもたらすだろう危機を正しく認識できたとしても、既存の製品が大きな売り上げや利益をあげている場合、その製品の担当重役が社内で強い影響力を持つため、その人が政治的に動いて、社内で起ころうとしている「破壊的イノベーション」の芽を摘みに来る可能性が高いのです。
そこには、「自分たちが稼いだ金で、新しいことをやろうなんてずるい」という嫉妬心もあるだろうし、「市場で成功している製品と競合する製品を自ら作る必要はない」という自己防衛の気持ちもあるのだと思います。
そのためには、よほどトップに時代の流れを読む力があり、短期的な売り上げや利益に囚われずに、経営判断をする必要がありますが、当時トップだったスティーブ・バルマーには難しかったのだと思います。