約90年ほど前、1928年の大礼記念京都博覧会に、「学天則」という東洋初のロボットが展示されましたが、それをつくったのが西村真琴という生物学者でした。
その西村は、1932年の上海事変で廃墟と化した上海市へ、災害者援助のために医療団を組織して乗り込みますが、郊外の三義里というところで傷ついた鳩を見つけ、これを持ち帰り、三義と名付けて日本の鳩と一緒に鳩舎に入れたのです。
そして、子どもができたら、友人である魯迅に日中友好の証として贈ろうとしていました。ところが運悪く、鳩はイタチに食い殺されてしまいました。これを悲しんだ西村は、自宅に「三義塚」をつくり、鳩の絵と「西東国こそ違へ 小鳩等は親善あへり 一つ巣箱に」という詩とともに魯迅に送ったのです。
この西村の思いに感激した魯迅が西村に贈ったのが、「題三義塔」という漢詩でした。その一節が「荒波を渡り尽くせば兄弟あり、互いに会って笑えば恩讐も滅びる」だったのです。ちなみに現在、大阪の豊中市にこの「三義塚」が移設され、魯迅の詩碑とともに残されています。
● 西村真琴と魯迅
そもそも日中友好を願う日本人に感動して魯迅が創作した漢詩「題三義塔」を引用して南北首脳会談に賢しらに口を出し、その一方で「日本は焦っている」などと日本の孤立をあざ笑うかのような記事を出すのですから、本末転倒です。
中国政府は、この魯迅の漢詩を、台湾に対してもよく使います。温家宝も2008年、台湾と中国の関係について、この詩を引き合いに出して、中国人と台湾人は仲良くやっていける、だから統一すべきだと主張しました。ところが、そんな中国は、一貫して台湾への武力行使を絶対に放棄しないと宣言しています。
要するに、中国はこの魯迅の漢詩を、「祖国統一」のための侵略の方便として使っているのです。そのように考えると、南北首脳会談にこの漢詩を贈ったのも、非常に意味深長です。朝鮮半島での武力統一も示唆しているわけですから。
いずれにせよ、今回の南北首脳会談について、中国が自らのプレゼンスを誇示するかのようにアピールしているのは、来るトランプ・金正恩の首脳会談によって、米朝が接近することを警戒してのことでしょう。
しかも、金正恩は日本との対話を明言し、日本政府も朝鮮半島が1つになることに日本の不都合はないと言い切っているため、中国としては南北統一が現実のものとなりつつあります。そうなると、ベトナムに加えて反中国家がすぐ近くに誕生することになりかねません。中国はそれを何よりも恐れています。
不安定な朝鮮半島情勢をめぐり、周辺国や関係国の陣取りゲームやチキンレースが始まりつつあります。中国が南北に漢詩を贈ったということは、そのことを示しているわけです。
image by: 魯迅像 魯迅公園・上海(WikimediaCommons)
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