【書評】なぜ筒井康隆は「老人版バトルロワイヤル」を書いたのか

 

地区の医師は老人の診察や治療をしてくれなくなった。地区内で10余人は、バトル終了を待たずに死亡すると見込まれていた。このチャンスにヤクザが武器を売りに来る。ワルサー一挺が250万円、手榴弾30万円。死の商人の商売繁盛である。厚労省は地震や洪水などの被災地はバトル対象から外すことに決定した。被災者を殺し合わせるにしのびないという「良識」によるものである。

「その良識なる名のもとでこんな状態になったのじゃなかったのかね。あの、間の抜けた介護制度なんてものは良識による悲劇の最たるものじゃなかったのかな」と宇谷は怒る。与党も野党も人気とりとなれあいで、老人を利用し、いたぶってきたのだ。一事が万事、良識や優しさとやらがバトルの裏返しなのだ。

宇谷は生き残る。猿谷は重傷を負うが元気がいい。そこに別地区の生き残り砂原が現れ、このバトルは日本の過去を葬ろうとする愚挙であると断じる。政府は相互処刑などと称しているが、実は老人による老人の処刑、殺害に他ならない。これ以上この制度を続けてはならない。政府に制度を見直す機会を与えるために、実力をもって厚労省を逆襲するしかない、と賛同を得に来たのだった……。

70歳を超えた筒井康隆が描いた、本来なら賛否両論が起きるような刺激的な内容なのに、小説新潮に連載中になんの騒ぎも起きなかった。単行本、文庫本になっても、不謹慎とかいった非難はなかったように思う。今だったら、有名人の些細な一言でもギャーギャー騒ぐ狭量なマスコミもかつてはこんな過激な冗談にも寛容だったようだ。山藤章二が描く40数人の登場人物の全身像と、武器代わりに動員された象一匹の姿が味わい深い。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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