研究開発費が米国の260分の1以下では、日本の防衛産業は育たない

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2018年度まで6年連続で増加している日本の防衛費。しかし、その予算は日本の防衛産業に向いているわけではないようです。『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さんは、防衛研究開発費の比率と金額が列国の中でも最下位レベルと指摘。企業側が積極的に防衛関係の研究開発に取り組めず、日本に「防衛産業」と呼べるものが存在しない実態を明らかにしています。

日本に「防衛産業」はあるか

読者から「防衛産業の構造について取り上げて欲しい」との要望がありました。

はたと頭を抱えてしまいました。

それというのも、日本には防衛産業なるものが存在しないに等しいからです。むろん、日本の防衛生産に関わる企業のどれをとっても、ロッキード・マーチンをはじめとする世界的な軍事産業とは比べるべくもありません。

日本で防衛生産を行っている代表格は三菱重工ですが、2017年度の総売上3兆8757億円のうち航空・防衛・宇宙分野の比率は18.6%(7215億円)にすぎません。この全てが防衛関係ではありませんし、2014年度のように比率が一桁台(8.9%、4174億円)のこともあるのです。このような三菱重工を指して、防衛産業と呼ぶことはできないのです。

川崎重工、富士重工や三菱電機、NECのどれをとっても、防衛関係の売上は三菱重工よりはるかに少ないのは言うまでもありません。これに対して、ロッキード・マーチンは総売上5兆8000億円の大部分が防衛関係なのです。

日本の防衛生産は、防衛費のうちの装備品等購入費(2018年度、322億円、3.1%)と研究開発費(同、352億円、3.4%)の合計(同、674億円、6.5%)によって規模が決まる構造です。特に防衛研究開発費の防衛費に対する比率と金額は、列国の中でも最下位レベルに終始しています。

米国のように、防衛研究開発費が日本の防衛費の2倍近い9兆4千億円もあれば、企業の研究開発を後押しし、世界の最先端を行く画期的な技術開発を実現することができるでしょうが、日本はそれもままならない状態です。これでは、企業の側が積極的に防衛関係の研究開発に取り組むわけがありません

かくして、日本の防衛研究開発と防衛生産は「防衛産業」「軍事産業」と呼んでも構わないような企業群を浮き出せない状態に終始しているのです。

確かに、経団連には防衛産業委員会があります。2014年度までは防衛生産委員会という名称でした。これは、世論を気にして「防衛産業」という言葉をあえて避けてきたという面もありますが、それよりも、防衛産業が存在していない実態を表す名称だったと考えるべきでしょう。防衛産業委員会への改称は、防衛産業を育成したいという経団連の思いが一歩踏み出したということなのです。(小川和久)

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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