阿曽山大噴火が裁判所で見た、薬で人生が変わった国家公務員

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裁判傍聴芸人として名高い阿曽山大噴火による連載『裁判妙ちきりん』第30回!
法廷でしか味わう事のできない裁判のリアルをお届けします!
罪名 覚せい剤取締法違反、医薬品医療機器法違反
被告人 国家公務員の46歳の男性
起訴された事件は4つ。

まず1つ目は、去年の11月24日。新宿区歌舞伎町の路上で、被告人がフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩の結晶0.205gを所持した件。

2つ目は、その前日11月23日。自宅で自己の身体に注射で薬物を摂取した件。

3つ目は、11月25日。新宿署内の身体検査室でフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩0.203gを所持した件。

4つ目は12月7日。自宅にフェニルメチルアミノプロパン1.737gと亜硝酸イソブチルと亜硝酸イソペンチル1mlを所持した件。

現役の外務省職員が覚せい剤を持っていたと、大々的に報じられた事件です。

ニュースでは所持だけだったけど、使用と自宅での所持、さらにラッシュも持っていたと起訴されてました。

ちなみに、初公判の翌日に外務省が被告人の懲戒免職を発表したけど、この時点ではまだ辞めていないので国家公務員ということで。

検察官の冒頭陳述によると、被告人は高校を卒業してからずーーーっと外務省で働いていたという。

覚せい剤とラッシュは2017年にはじめて使ったとのこと。

取調べで被告人は、「2017年初頭、性行為のときに覚せい剤を使った」と使い出したきっかけについて供述し、「逮捕された11月24日は、財布の中に覚せい剤を隠しているのを忘れていて、職務質問で見つかった。そのショルダーバッグの中と、自宅にも覚せい剤があった」と答えているようです。

ニュースだと、パトカーを見て足早に立ち去ろうとしたのが怪しくて、警察官が職務質問したって話だったけど、被告人は「ショルダーバッグの中を見られたらヤバい」って思ったんでしょうね。でも、そっちじゃなく財布内の覚せい剤がバレて逮捕と。

違法な物を持ち歩いて、それを忘れている時点で、覚せい剤を持ってることが日常になってたんでしょうね。

法廷には1人の女性が情状証人として出廷。

弁護人

「被告人と知り合ったのは?」

証人

「平成9年、私はフランス勤務で被告人はナイジェリア勤務だったんですが、共通の知人にそのとき、紹介されました」

弁護人

「もともとは上司と部下だと」

証人

「はい。友人になります」

弁護人

「今日は外務省職員としてではなく、友人と

して出廷ということでいいですね」

証人

「はい」

あくまでも外務省を背負ってきてるわけじゃないですよと。

弁護人

「仕事ぶりはどうでした?」

証人

「私の下にいたときは、勤勉な方で多くの人に頼られていました」

どれくらい前に被告人が証人の部下だったのかはわからないけど、真面目だったようです。

次は検察官から。

検察官

「省内での影響ありますか?」

証人

「私の周りは特にないんですが、信じられない、面会に行きたいと言って来た人はいますね」

それくらい、証人と被告人が親しいってことを周りも知ってたってことでしょうね。今後の監督を約束して、証人尋問終了。

そして、被告人質問です。まずは弁護人から。

弁護人

「まず、ラッシュの件ですけど、いつ話しました?」

被告人

「12月22日の取調べのときです」

弁護人

「警察は知ってたの?」

被告人

「自宅を捜索して押収はしてたようですが、何かわかってなかったようなので」

ラッシュに関しては自白したとアピールです。

弁護人

「覚せい剤を使うきっかけは?」

被告人

「平成29年はじめごろ、性交渉の相手からすすめられました」

弁護人

「何度か会ってる人なんですか?」

被告人

「いや、そのときだけです」

一夜だけの相手が持ってた物を使ったのが初体験だったようです。

弁護人

「その後、自分で買ったのはいつ?」

被告人

「うーん、数ヶ月後とか」

弁護人

「なぜ買おうと?」

被告人

「仕事のストレスとかがあって。あと周りに相談するのが苦手で、孤独感が」

証人の話だと周りに頼られていたみたいだけど、頼ったり相談するのは下手だったのかもしれませんね。

弁護人

「ラッシュのきっかけは?」

被告人

「昨年夏に知り合った人にもらいました」

弁護人

「何度か会ったんですか?」

被告人

「いや、そのときに一度だけ」

どうも初対面の人から怪しげなものをもらう人ですね。ってか、ホントの話なのかね。逆の立場、覚せい剤やラッシュを持ってる側になって考えると、はじめて会った信用できるかどうかもわからない人に見せるもんなんですかね。もし自分ならコイツは口が堅いってわかってから見せると思うなぁ。もちろん、違法薬物なんて持ってないけど。

弁護人

「ラッシュはその後も使ってた?」

被告人

「使ってません」

弁護人

「ラッシュは1回だけ。でも覚せい剤は続けていたと。どう思ってますか?今」

被告人

「使うこと自体違法で、国家公務員は法律を遵守する立場なのに。後悔しています」

弁護人

「再犯しないためにどうしますか?」

被告人

「そういう人に近寄らないのはもちろん、周りの人に相談します」

弁護人

「あと、今後仕事はどうします?」

被告人

「20年来の友人が飲食店を経営しているので、働かせてもらおうと思ってます」

流石に外務省の仕事は続けられないと思ってるようで、友人を頼って働くとのこと。

次は検察官からの質問。

検察官

「覚せい剤を自分で買うときですけど、どこで売ってるかどうやって知りました?」

被告人

「インターネットで調べました」

検察官

「先ほども訊かれてましたけど、なんで買おうと思ったんですか?」

被告人

「いろんな不安があるなかで、親しい同僚が海外に行ってまわりにいなくて、なかなか悩みを打ち明ける人がいなかったり。気分転換したいと」

よく考えると、外務省は東京地裁の斜め向かいにあるんだから、1回くらいは霞ヶ関駅ですれ違ってるんだろうなぁ。あの辺をスーツ姿で歩いている人は全員すごい人、立派な人だと思って見てるんだけどね。人は見た目じゃ何もわからないもんですな。

最後は裁判官から。

裁判官「次に動こうとしてるのがアフリカンバルって反省文に書いてますけど」

被告人

「私がナイジェリアにいるとき、その人もナイジェリアにいまして知り合ったんです」

裁判官

「アフリカに詳しいから活かしたいと?」

被告人

「んまぁ、英語は多少話せるので」

ナイジェリア勤務がここで活きてくるとは。

裁判官

「自分で覚せい剤買ったのは何回?」

被告人

「正確には覚えてませんが、5~6回」

裁判官

「きっかけとなった人とはそのとき限り?」

被告人

「はい」

裁判

「そういう人とどうやって接触する機会があるんですか?」

この問いに何も答えられず固まる被告人。いわゆるワンナイトラブの相手を根掘り葉掘り聞き出そうとか、裁判官もずいぶん俗な質問するなと思っていたら、

裁判官

「質問の意味わかります? そんな人、普通じゃないですよね。はじめて逢って覚せい剤をすすめてくるような人。一時とはいえ、なぜ出会う機会が発生するの? ましてや、国家公務員という立場のあなたが」

被告人

「……」

何も言わず。いや、言えずといったところか。

裁判官

「生活に問題あったんじゃないですか?」

被告人

「あると思います」

裁判官

「じゃ、今後どうしたらいいと思います?」

被告人

「不特定の人と接触を持たないようにします。……できれば、一緒に生活できる人がいればなと」

検察官が冒頭陳述で身上を省略してたのでわからなかったんだけど、被告人は独身ってことなんですね。伴侶が見つかれば再犯はないということなんでしょう。

裁判官

「職場の処分予想してます?」

被告人

「……」

裁判官

「やめなきゃと思ってます?」

被告人

「はい」

と裁判官の予言通り、翌日の報道です。

この後、検察官が懲役2年と覚せい剤4袋、瓶入り液体1本没収という求刑をし、弁護人は執行猶予付きの判決を求めて閉廷でした。
──もし、この裁判がフィクションだったとして。私は被告人の言葉に対して───
外務省で被告人の近くの席に座ってたとしたら、「頼りにならないと思われてたのか」って思うだろうなぁ。
ま、2月21日に実際に行われた裁判なのだが

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