齋藤 「武道にも、稽古を反復することで質が変化するという考えがありますね。生クリームは最初は液体です。ところが、材料の液体を掻き混ぜていると、それが突然固体に変わる。これは永遠に液体なんじゃないかと思っても根気強く混ぜ続けていると、ある瞬間に生クリームになるんですね。音読も武道もこれと同じで、質的な変化を起こそうと思ったら、量的な反復がどうしても必要なんです。第一、『必ず生クリームになる』と確信を持ってやっていないと、やってられないですよね(笑)」
陰山 「僕も言っています。『信じる者は救われる』って(笑)。いま齋藤先生がおっしゃった『続けていると突然変わる』というのは、ものすごく重要なポイントで、僕はこれを『突き抜け』と言っています。『百ます計算』でも『音読ドリル』でも、『この子は無理だな』と思っていた子が、ある日、パーンと弾けたようにできるようになるんです。そこまではその子の可能性や自分の指導を信じるしかないわけですが、ありがたいことにご利益は生きている間に出ますから(笑)」
齋藤 「徹底反復で無意識でそれができるようになると、他のことに意識が使えるようになります。つまり、注意深くなってミスが減るんですね。スポーツで言えば徹底反復していない人は目の前のボールだけに目を奪われて周りが見えず、試合ではボロ負けしてしまう。いまの教科書は、現在の子供たちの能力をもってすると簡単すぎて徹底反復には堪えられないというのが私の率直な感想です。
昭和30年代、40年代と違っていまの子供たちは、いろいろな言語を吸収して小学校に上がるわけですから、中身のない文章ばかりでは、子供たちを軽く見ているとしか思えません。どの教科書も文字数が知れていて、その気になったら数時間あれば一冊を覚えてしまいます。練習メニューのレベルが低いと、先生方もどうしてもレベルの低い教え方になってしまう。そう考えると非常に残念ですね」
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