田中局長と柳京氏との裏交渉の結果、日本の首相が北朝鮮に乗り込んで、拉致された人たちを救い出すという、勇ましい外交ショーが繰り広げられ、小泉人気はみるみるうちに回復したのである。
柳京氏はその後、南北秘密接触で訪韓したさい、韓国の情報当局の取り調べを受けたのがもとで、北朝鮮当局にスパイ罪で粛清された。
もし、日本政府が第2のミスターXを見いだすことができたなら、対北政策の“かくも長き不毛”はなかったに違いない。
トランプ氏のお気に入りになったのが、ほとんど唯一の“外交成果”といえる安倍首相のこと。4月下旬に訪米したおりに、金正恩委員長と会う方法を教えてもらうなり、日朝会談のお膳立てを依頼するなりすればよさそうなものである。
それではますますトランプ氏に軽く見られ、貿易交渉でつけ込まれると懸念したのだろう。例のごとくゴルフで親睦を深めただけで安倍首相は帰ってきた。
北朝鮮への交渉ルートを切り開く“大役”を引き受けたのは、安倍首相と入れ替わるようにアメリカに渡った菅官房長官だったらしい。
5月11日のTBSニュースは、菅官房長官の訪米目的について、「金正恩党委員長をとりまく北朝鮮の人間関係について、日本の把握している情報が正しいのか確認したかった」という日本政府関係者の話を伝えた。
つまり、日本政府が目星をつけている人物が、金正恩に話ができる交渉相手として的を射ているかどうか、不安があるのだ。
その原因は、ベトナムで2月に開かれたトランプ・金正恩会談が「決裂」した後、北朝鮮首脳部に起きた変化にありそうだ。
<日経新聞2019年4月6日>
6日付の朝鮮日報は、2月末の米朝首脳会談に先立ち米側との事前協議を担った北朝鮮の金革哲米国担当特別代表が、合意見送りの「重大な責任」を問われていると報じた。…対米交渉から外されたとする外交筋の話を伝えた。
金革哲氏はハノイ米朝首脳会談の実務責任者だった。「ハノイの決裂」の責任をとらされ、処刑された可能性もある。
<ロイター4月24日>
北朝鮮は、金正恩朝鮮労働党委員長の右腕で、ポンペオ米国務長官のカウンターパートである金英哲党副委員長を党統一戦線部長のポストから外した…韓国国会情報委員会の李恵薫委員長はロイターに対し、金英哲氏は…2回目の米朝首脳会談が物別れに終わったことを受けて「問責」されたようだとの見方を示した。
金英哲氏は昨年6月にシンガポール、今年2月にハノイで開かれた米朝首脳会談で金正恩委員長にピタリと寄り添っていた。だが、ハノイ会談後、その消息がぷっつり途絶えた。









