一般の企業経営においては「経営」が「技術」を含めたすべてを機能を育成、活用、統括して目標に向かって事業活動を展開を行うのですが、ホンダにおいては、まず突出した「技術力」ありきで、そこにおいて藤沢さんの仕事は、その「技術力」の育成なしの非常なアドバンテージ(優位性)をもって事業を行うことができたと言えそうです。
とは言うものの、藤沢さんのマネジメントの足跡に見ると、多くの「秀でた企業が突出する」ための「経営の知恵と意思」が込められています。どうすればよいのか、藤沢さんの場合は「何かをなそうとする強い志」を持ったことが始まりで、それを実現するための生なストーリーを描きました。演出家の藤沢さんは、自身のことを「ロマンティスト」と称しています。
経営(マネジメント)で難しいのは、狭い領域だけで生き延びようとするならば自身のスキルだけを磨いて秀でることのみに邁進すればよいのですが、ただ一定の市場つまり顧客の“ボリューム”を必要とします。そうでなくて「多くの人材」とともに“大きな成果”を実現させようとするならば納得・共感し魅力を感じらえる「可能性」と「価値観」が必須です。
藤沢さんは「企業というものはリズミカルであり、美的なものでなければならないと思っている」そして「みんなの心に訴えものは、新しい志であり、音楽であり、絵であり、芸術的なものである」さらに「リズミカルなもの、あるいは美しさといったことで、人の心を感動させるものが、ちょくちょくなければいけないと思っている」と不思議なことを言っています。
藤沢さんの基本的な考え方は「企業はアートである」です。藤沢さんが成したかったのは、本田さんという類まれな画材の力によって自分の理想のビジョンを社会というキャンバスに描きたかったのだと言えます。その来し方をみると、志が秀でて高かったけれど最初から巧みな描き手でなく、必死で本質に沿って熟考し行うなかで良い作品を完成させました。
藤沢さんの経営のため知識は、最初狭い範囲のものでかつ貧弱でした。秀でていたのはその“志”とその“美意識”です。実のところ、マネジメントにとって一見まったくの見当違いのこの二つの要素こそ、企業を「アート作品」として描き切るための根本力です。「儲けたい」「遊びたい」という「欲求」だけでは、よい作品はできません。
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