老朽化したマンションの終活。区分所有者が一人でも反対すればそこでストップがかかってしまい先が見通せなくなる中で、解体、敷地売却という理想的なルゴールにたどりついた奇跡のような一件があります。今回の無料メルマガ『まんしょんオタクのマンションこぼれ話』では著者の廣田信子さんが、湯沢町のリゾートマンションの終活を取り上げ、その困難さと「奇跡」を記しています。
解体・敷地売却できたリゾートマンションの奇跡
こんにちは!廣田信子です。
朝日新聞(5月10日)に、新潟県湯沢町で、老朽化したリゾートマンションの一つが解体され、更地として売却された…との記事がありました。これは、リゾートマンションとしては初めてのケースだと思います。このマンションは、上越新幹線越後湯沢駅から車で約30分、苗場高原にある1975年築(築44年)の6階建て30戸のマンション。苗場のリゾートマンションの草分け的な存在だったといいます。
バブル期には新築リゾートマンションが次々に建ちましたが、バブル崩壊後はこのマンションも利用者も減り、滞納が相次ぎ、修繕もままならなくなっていました。このままでは廃墟になる…と、2014年、所有者の何人かがようやく動き出しました。
まず、やったことは、把握できなくなっていた区分所有者を登記簿で調べること。そして、調べた区分所有者の住所にアンケートを郵送して意向を聞きました。28人中21人から回答があり、使い続けたいという人はゼロだったといいます。
2015年には、臨時総会を開いて管理組合を再起動し、解体の方針が決まりましたが、問題は、所在が分からない区分所有者の存在です。28名中4名はあて先不明で返ってきていました。所有者を探して、合意を取り付けなければ、解体も敷地売却もできません。法人所有で、会社の倒産等で、所有者が次々と変わっているものもあり、追いかけるのはたいへんな仕事です。
このたいへんな仕事に当たったのは、マンションの管理会社エンゼルのOさん。リゾートマンション専門の管理会社で、滞納問題と格闘してきた方です。
所在不明の法人の関係者を、名前を頼りに探し出すなど、尋常じゃない努力でようやく全員を把握。しかし、区分所有者の一人(多額の滞納あり)が解体に反対。それを、Oさんが、「このままでは、幽霊屋敷になって、事故が起きたら、責任が問われますよ」と説得し、ようやく解体の全員合意にこぎつけたといいます。
幸い、敷地は近くのペンションの経営者が500万円で買ってくれることになりましたが、最後まで解体に反対した人は、何とか解体には同意しても、敷地売却には反対したため、敷地が売却できません。しかたがないので、その反対者に対し、管理費等の滞納を理由に、区分所有法59条の「競売」を求めて訴訟。それが受理されました。
敷地が売却でき、滞納管理費のうち1,000万円を回収でき、残っていた修繕積立金の3,500万円と合わせて、区分所有者の追加負担なしで解体ができ、無事、区分所有者の責務から解放されのです。動き始めて管理組合解散まで5年かかっていますが、これは、ものすごく幸運なリゾートマンションの最後の迎え方だと思いました。
まず、誰もこのマンションに住んでおらず、今後の利用も考えていなかったということがある意味幸運だったのです。もし、不動産価格が下がった後、老後の住まいにと購入した区分所有者が1人でもいると、解体の全員合意は難しくなります。そして、30戸と規模が小さかったことも幸いして、全員合意にこぎつけられたのだと思います。区分所有者が多いと、なかなか、まとまらなかったでしょう。
また、敷地面積も小さく、スキー客にはいい立地だったので、買い手が現れたというのも幸運です。スキー場からも駅からも距離があり、しかも、大規模な敷地となると、なかなか買い手が現れないことも考えられます。
また、理事会が機能しておらず、利用者もほとんどいなかったので、一部の区分所有者がまじめに払い続けてきた修繕積立金が使われずに残っていたことも幸いしたと思います。最後を考えないで、修繕積立金を、自転車操業的に維持管理に使っていたら、解体費用も残っていなかったでしょう。