そしてさらなる受給額抑制策を導入したのが2016年に成立した年金改革法だ。物価上昇より賃金上昇が下まわる場合、賃金変動に合わせて受給額を調整するのがミソである。これにより、物価に関わりなく現役世代の賃金が下がれば、年金受給額も減少することになった。
現役世代が払う年金保険料は2017年まで段階的に引き上げ報酬月額の18.3%で固定されている。もらえる年金はモデル世帯で現役世代の手取り収入の50%を確保することになっている。
これをもって、自公両党は「100年安心プラン」と称してきたが、実質賃金は、安倍政権が誕生した2012年以降、インフレ誘導政策もあって顕著に下がり続け、これにともなって、実質的な年金受給額も落ちている。
その傾向は今後も続くと見られるからこそ、「金融審議会市場ワーキング・グループ」の報告書に次のような記述があるのであろう。
公的年金の水準については、今後調整されていくことが見込まれているとともに、税・保険料の負担も年々増加しており、少子高齢化を踏まえると、今後もこの傾向は一層強まることが見込まれる。
年金の水準は下がっていくと見込まれるから、「自助」が必要というのだ。
安倍首相が蓮舫議員に反論した「100年安心はウソではない」の本当の意味は、年金制度の維持についての安心であって、年金があれば安心して国民が暮らしていけるということではない。それを、ごちゃまぜにして「安心」という言葉でごまかすから、ウソだったと言わざるをえないのである。
21人で構成される金融審議会市場ワーキング・グループの大半は投資や金融を専門とする企業人や大学教授らだ。年金不安を利用して投資に誘導する目的は明らかであるにせよ、年金の水準が低下していくのは、二度の“年金改革”に埋め込まれた仕組みから見通せるわけで、そこにさほどウソはないだろう。
選挙を前に痛いところをつかれた自民党の萩生田光一幹事長代行は記者会見で「不安や誤解を広げるだけの報告書であり、評価に値しない」と述べ、林幹雄幹事長代理が国会内で金融庁幹部に撤回を要求したという。
麻生大臣も今になって、せっかく長い議論の末にまとまった報告書の受け取り拒否を決めた。「世間に著しい不安や誤解を与えており、これまでの政府の政策スタンスとも異なる」というのが、その理由だとか。
あの麻生節はどこへ行ったのか。政策への信念はまるでなく、選挙への影響を恐れ、あわてふためいて態度を変える姿はまことに見苦しい。
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