海外のメディアのニュースを、日本のマスコミではあまり報じられない切り口で本当はどういう意味で報じられているのか解説する、無料メルマガ『山久瀬洋二 えいごism』。今回は、山久瀬さんご自身のアメリカ出張での困った体験をもとに、黙っていたら損をする、国際社会厳しいルールについて解説しています。
したたかな国際社会の無法の掟とは
Don’t ask for permission, beg for forgiveness.
訳:許可を求めるな。許しを乞え (アメリカの格言より)
【ニュース解説】
今回アメリカに出張したときのことです。
その日はニューヨーク郊外にあるニューアーク空港からシカゴ経由でロサンゼルスまで移動することになっていました。そもそも、ぎりぎりまでアポ先のスケジュールが固まらなかったために、直行便の予約ができず、仕方なくシカゴ経由となったのです。
さて、空港に到着して発券機を使って搭乗券をもらおうとすると、思うようにいきません。近くに航空会社の係員がいたので、助力を求めると、彼女いわく、シカゴ行きが大幅に遅れるため、乗り継ぎ便に間に合わないとのこと。そもそも、夜遅くロサンゼルスに到着するはずだったので、この便を逃すとホテルの予約など、様々な不便に見舞われます。
そこで、直行便に空席があるかときくと、大丈夫ということですが、その便の座席の状況をみると、後方の真ん中の席しかないのです。うんざりですね。しかも元々の便ではマイルを払ってアップグレードし、ビジネスクラスの通路側を予約していたのです。
「マイルはちゃんとクレジットしてくれますよね」
私はそう確認をすると、
「自分の担当ではないので、後でウェブサイトで問い合わせてよ」
とそっけない返事。そもそも遅延があり迷惑をかけたことへの謝罪もありません。しかも、このウェブサイトが曲者で、一度変更してしまった航空券の差額を返金してもらうにはかなりの手間がかかります。
「ここではなんともならないの?」
とさらに問い合わせると、
「無理よ。この便に乗るのどうするの」
という応対です。
「ほかに方法はないよね。じゃあともかく搭乗券をください」
といって、しぶしぶ手続きを終えました。
やれやれとため息ひとつ。ところが、これで話は終わりません。搭乗券を持って、セキュリティ・チェックの場所にいくと、そこが長蛇の列なのです。搭乗券をみると搭乗時間まで15分しかありません。しかも、出発30分前には搭乗を締め切り、飛行機に乗れなくなると書いてあります。
先ほどのエージェントは、空港の混雑状況や差し迫った搭乗時間への配慮がなかったわけです。しかも、このまま列に並んでいては乗り遅れ、乗り遅れた責任は自分に降りかかる恐れすらあるわけです。先ほどのエージェントと搭乗ゲートの係員との連携プレイなど期待できないのです。
列の後ろにつき、そばにいる警備員に急を伝えても、ともかく列に着くようにというだけです。一体これは誰の責任なのでしょう。日本であれば航空会社に強くクレームすればなんとかなるかもしれません。しかし、アメリカではそんなことをしている間に本当に乗り遅れ、あとの処理は全て自分でということになりかねません。
そこで、私は手荷物をしっかりと握りしめ、
「Excuse me. I am missing my flight. Sorry. Let me pass!」
(すみません。飛行機に乗り遅れそうなので、ごめんなさい。先に行きます!)
と連呼しながら、並んでいる人を押し分けてどんどん前に。おそらく100人抜きはしたのではないでしょうか。何度も同じ言葉を繰り返し前進です。ただ、Excuse me! と言ってもダメでしょう。「乗り遅れそうなんだ」という理由をちゃんと添えて連呼し、横に人がどいてくれたらThank you! と何度もお礼を言いながら、なんとか数分で列の先端にやってきたのです。
この行為で、やっと飛行機に間に合います。そして、飛行機が出発する直前に、前方に通路側の席を見つけます。すかさずキャビンアテンダントにオリジナルの予定が書かれた書類を見せ、事情を話し、運良くたったひとつ乗客が乗ってこなかったことで空席になったビジネスクラスの通路側の座席に座ることができたのです。6時間のフライトです。座席を確保した時の安堵は言うまでもありません。
一度日本を離れれば、自分が求めることは、自発的に自分から動かない限り、誰も助けてくれません。このケースの場合、そもそも最初のエージェントの対応に大きな問題はあるものの、その結果おきてしまった状況を変えられるのは航空会社ではなく、自分でしかないのです。
長蛇の列についたことで飛行機に乗り遅れたとき、誰もその責任はとってくれません。ですから、自分で決めて列にどんどん割り込んで問題を解決し、まずは搭乗し、さらに飛行機の中で自分のニーズをキャビンアテンダントに主張してこそサービスを受けられるのです。
この行動様式は、欧米でのビジネスの進め方にも深く繋がります。列の後ろから割り込んでいいですかという許可を求めるのではなく、まずは行動を起こし、割り込みながら、その後で必要であれば謝罪して前に進むのです。その発想を表したものが、今回紹介した格言なのです。
既得権を持つこと。アドバンテッジを最大限に利用するために、まずは動いて状況を変えること。それが国際社会のサバイバルゲームでの鉄則ともいえそうです。
最初からやってもいいですかといえば、大方は「ノー」という答えが返ってきます。ですから、許可を求めるなということになるのです。
動いたあとで「ごめんね」といえばいいのです。ルールを重んずることは大切ですが、ルールに縛られてしまうことには問題があります。
海外との競争にさらされている今、日本人、そして日本の社会が抱える課題は、このルールに縛られていることを、ルールに従うことと勘違いしていることなのです。
「許可をもとめるな。許しを乞え」というしたたかな方法で、どんどんルールを変えてゆく競争社会の中にあって、あまりにもお人好しな優等生としての日本人の姿がしばしば浮き彫りにされることが多々あります。
そうした日本人の考え方が良いか悪いかは改めてじっくり考えるとしても、そのことによって我々が失いかねない権益や利益の大きさだけは知っておいてほしいのです。
image by: Shutterstock.com