繰り返しますが、むしろ現在、いじめ防止法に懲戒に関する規定がなく、懲戒の基準等の定めがないことから、懲戒処分に処しても、いじめ自殺等の重大な事態であっても、教師に甘すぎる懲戒処分が横行しているように思えます。例を上げますと、
- 山形県天童市中1女子生徒のいじめ自殺事件(2014年1月)では、保護者が相談していたのに学校が対応しなかったことで、自殺に至りました。これに対しては、担任と部活顧問を「減給10分の1(3カ月)」、学年主任と教頭を「戒告」という、あまりにも軽い処分となっています。
- 兵庫県加古川市の中2女子生徒いじめ自殺事件(2016年9月)においても、死亡の3カ月前のアンケートで生徒のいじめ示唆を見逃すなどしていたにもかかわらず、担任と学年主任が訓告、部活顧問と1年時の担任を厳重注意に、校長を「戒告」だけですませてしまいました。
懲戒処分には、重い順に、「免職」「停職」「減給」「戒告」があります。しかし、いじめ自殺事件では「減給」や「戒告」、ひどい場合には何の処分もないことがあります。
たとえば、2016年、兵庫県の女性教諭が、給食の牛乳やパンを余分に注文して、無断で自宅に持ち帰っていた事件では、代金約6,200円を弁償したものの、「停職1カ月」になりました。教師が生徒を自殺に追い込むことと、パンを盗むことでは、盗みのほうが重いというのは、あまりにも不公平という気がします。
ただ、こんな事例もあります。神奈川県では、茅ケ崎市の市立小の男子児童がいじめられて、小3から2年以上不登校になった事件について、担任はいじめを知りながら対応せず、「いじめを認識していなかった」等と虚偽の説明をしたとして、「停職1カ月」という重めの処分を下しています。ちなみにこの時、校長は「減給10分の1(6カ月)」、教頭は「戒告」の懲戒処分とされました。
いじめを認識しながら放置して、生徒の死亡や長期の不登校などの重大な結果になった場合には、この茅ケ崎市の処分のように、「停職」や「免職」の処分にすることが、正当で公平な処分と感じられるのではないでしょうか。次の国会までに改正案を練り直し、いじめ防止法に教師への懲戒規定を定めるべく改正していただきたいと思います。
いじめから子供を守ろう ネットワーク
松井 妙子
(注):昨年末時点で、いじめ防止法の改正素案には、懲戒に関して次の2つの条項が定められていました。
● 懲戒その他の措置の基準及び手続
第24条の2 地方公共団体は、教職員がこの法律(筆者注:いじめ防止対策推進法)の規定に違反している場合(教職員がいじめに相当する行為を行っている場合を含む。)における当該教職員に対する懲戒その他の措置の基準及び手続を定めるものとする。
● 地方公共団体が設置する学校の教職員に対する懲戒
第24条の2の2 地方公共団体が設置する学校の教職員の任命権者は、当該学校の教職員がこの法律の規定に違反している場合であって必要があると認めるときは、地方公務員法第29条の規定に基づき、適切に、当該教職員に対して懲戒を加えるものとする。
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