いきなり海からじゃない。生物が陸上に進出するまでに起きたこと

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生命の起源である海から、長い時をかけて陸上に進出した生物。動物が陸に上がるために骨格を発達させる必要があったとする説に対し、メルマガ『8人ばなし』著者の山崎勝義さんは「過程が見えない」と指摘します。山崎さんは、海水域から淡水域を目指した生物たちが、その環境に適応するために獲得したものが、さらなる新天地「陸」への準備となったと、目からウロコの進化の話を披露してくれました。

生物の陸上進出と骨のこと

かつて生物が海から陸上へ進出した際に、浮力の無い地上で自重を支えるために発達させたのが骨格である、という考えがある。この理屈に従うなら、生物は陸上で生活するために骨を発達させたということになる。

一見、筋の通った説ではあるが実は大きな弱点がある。それは一番最初の生物現象、つまり初めて水から陸に上がった生物について説明できないというところである。本来、水の物であった生物が陸の物になる変化の過程が見えないのである。

では「水から陸へ」という、この生物史上の大躍進は如何に説明すればいいのであろう。かつて生物は海で生まれ、爆発的にその種を増やし、繁栄を極めた。海は生物にとって生き易い環境だったのである。当然ながらこのことを逆に言えば、競争の激しい世界でもあったということである。

そこで一部の生物群は新天地である淡水域を目指した。ここで大問題が生じた。ミネラル不足である。舐めるとしょっぱい海水はミネラルの宝庫であった。一方、淡水にはカルシウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウムなどのミネラルが圧倒的に少ない。この問題を解決しなければ、生物圏はせいぜい汽水域止まりである。

生物の恒常性に必要不可欠なミネラルが常時確保できないなら、それを蓄える何らかのシステムが生き物には必要となる。その時、生物の体の中心に出来たのが骨である。骨は元々カルシウム等のミネラル備蓄器官だったのである。これが素地となりやがては地上進出が可能となるほどの骨格形成を見るに至るのである。因みに、原始の海生生物において骨にあたる部分は現在のサメのように軟骨であった。

もう一つの問題は酸素である。河川などの淡水域は大雨が降った時などの土砂の流入が激しく容易に水が濁ってしまう。水が濁れば水生植物まで日光が届かず光合成ができなくなる。水中は深刻な酸素不足となり、これを生き抜くための器官として初期の肺が形成された。

つまり、陸上で生きるために骨格あるいは肺が発達したのではなくて、淡水域で生きるためにどうしても必要だった骨や肺という器官が結果として地上への進出を可能にしたのである。

この事実は生物の可能性というものを考えた時、面白いテーマを提示する。生物は常に新天地を目指す。そして眼前の新たな環境に適応していくことが、さらなる新天地進出への準備となる。このようにして生物圏は地球上に無限に拡大していったのである。

自然界において生物は決してジョージ・マロリー的なロマンチシズムで新天地を目指す訳ではない。そこには現実の環境に適応できるかどうかという厳しい淘汰の連続があるだけである。故に生物は不気味なほどに逞しいのであろう。

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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