世界有数のIT大国としても名高く、ビジネスの面でも高い注目度を誇る国・インド。しかし、彼の国に住む人々の内面をよく知る日本人は多くはありません。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』では編集長の柴田忠男さんが、インド伝統文化の研究者が暴露した「インドの正体」に迫る一冊をレビューしています。
偏屈BOOK案内:山田真美『運が99%戦略は1% インド人の超発想法』
『運が99%戦略は1% インド人の超発想法』
山田真美 著/講談社
国際会議ではインド人を黙らせることと、日本人に発言させることが最も難しい。というジョークがあるが、会議のみならず、個人レベルにおいてもインド人の自己主張は生半可なものではないらしい。哲学者のような彫りの深くミステリアスな顔立ち、愁いを帯びた瞳、圧倒的なオーラ。しかもインド人の多くは恐ろしいほど自己PRがうまい。TPOに関係なく超弩級に押しが強いらしい。
著者はインドの伝統文化の研究者で、「ブリタニカ国際年鑑」のインドの内政、経済、外交のページを20年にわたって担当する。インド工科大学の教壇にも立つ。36年に及ぶインド人とのつきあいを通じて著者が痛感しているのは、「大部分のインド人は、初めて会ったときが一番すごい」であった。最初の衝撃波が最大で、それ以上の驚きを後年で提供してくれたインド人はほぼゼロだった。
日本とインドの違いを主として比較文化論的に、少し辛口にアプローチした本である。神秘なインド人の正体は、自分を限りなく大きく評価し堂々とアピールする人、に過ぎない。自己主張が通れば道理は引っ込む、そういうインド人を予め知っておけば、ビジネスでの失敗や個人レベルでの誤解を回避できる。
インド人の人生の目的は「アルタ(実利・富・財)」「カーマ(愛・性愛)」「ダルマ(法・義務)」の三つが、バランスよく実現することだという。たった三つしかない人生の目的の一つが、ビジネスと金儲けなのだ。日本人は金儲けよりも清貧をよしとするメンタリティがまだ残っている、と思う。じっさいわたしはそれを標榜している。人生不器用で稼ぎがない、というだけであるが。
インド人とのつきあいの中で日本人が困惑するワースト3は、時間を守らない、恐ろしく押しが強い(遠慮というものを知らない)、アルコールに対して非常に厳しい、である。インド人は酒をのまない(飲んでも飲んでいないふりをする)、飲酒自体を軽蔑する。特に女性の飲酒については、絶望的に厳しい。
インドで女性として生きるとはどういうことか。インド人に嫁いだ日本人女性の話。ごく普通の日本人だが、インド人に一目惚れされ「すべて君の希望通りにする」と熱烈なプロポーズを信じてインドへ。10余年後、彼女は殆ど軟禁状態。家計は夫が握る。好物の牛肉・豚肉を食べられない。夫の同伴なしでは外出禁止(インド女性の62%がそんな状態)。インドのことを殆ど知らない。
彼女の現状はインドではごく普通らしい。社会の底辺に閉じ込められた女性がいて、一方で社会のトップで活躍する女性もいる。インド国民会議派(民主国家のなかでは世界最大級)党首のソニア・ガンディーは、なんとイタリア人。初めは普通の主婦だった。いくら夫がラジーヴ・ガンディーで、姑がインディラ・ガンディーとはいえ、イタリア人がインドで歴史ある政党の党首とは……。
日本人のインド人観は、1964東京オリンピックの頃にTVCMで流された「インド人もビックリ」というキャッチコピーにあるだろう。インド人は並大抵のことでは決して動じない、という暗黙の了解が拡散し定着したが、なんでもありがインド、超保守的で超革新的なインド、こんなわかりにくく、遠い国もない。その正体は「自己主張が通れば道理は引っ込む国・インド」らしい。
編集長 柴田忠男
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