1870年、オーストリア生まれのアルフレッド・アドラーは、カール・ユングなどと並ぶ心理療法の権威であり、個人心理学(アドラー心理学)を創設した人物として広く知られています。今回の無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、アドラーに私淑してきたカウンセラー・岩井俊憲氏が対談を通じ、劣等感の効用や共同体感覚と勇気の関係性など、独自の着眼点に基づく名言を紹介しています。
心に響くアドラーの金言
現代の心理療法を確立したアルフレッド・アドラー、マネジメントの父と称されるピーター・ドラッカー。近年注目を集めているこの二人は、生前交流こそなかったものの、出自や人間観、思想、学問的アプローチなど、通底する部分が多くあります。
それぞれの偉人に私淑し、その教えを伝承する岩井俊憲氏と佐藤等氏が語り合う人間学談義は、ストレス社会や多様性社会とも言われる現代社会をいかに生くべきかのヒントがちりばめられています。
現在発行されている『致知』9月号より、その対談の一部をご紹介します。
佐藤 「岩井先生が特に心に留めているアドラーの言葉は何ですか?」
岩井 「一つは、『生きるために大切なこと』に出てくる「人は誰でも劣等感を持っている。劣等感それ自体は病気ではない。むしろ健全な向上心に繋がるきっかけになるだろう」という言葉です。
劣等感と聞くとだいたいネガティブな印象を持ちますよね。ただよく吟味すると、アドラーの文脈では二通りの意味があるんですよ。
一つは他者との比較に基づく劣等感です。あの人に比べて自分は劣っている。これは反対に、あいつより自分はすごいという優越感を生み出して、上下関係ができるんですね。これは劣等感の弊害です。
もう一つは、目標を持つことによる劣等感があるんですよ。いまよりももっとよくなりたいと目標や理想を持つと、現状との比較で陰性感情が出ます。悔しい、もどかしい。これも劣等感なんですね。アドラー自身、子供の頃にくる病を患って、大人になっても身長が154センチしかなかったんです。ですから、アドラーの1907年の著書は『器官劣等性とその心理的補償の研究』で、他者との比較による劣等感がテーマだったんですけど、やがて自分の目標と現実とのギャップによる劣等感に転換します。
で、アドラーが盛んに言うのは、後者の劣等感は進歩向上のモチベーションになるから、病気でも悪者でもないと。むしろ、大事な味方であるというメッセージを発しているんです。
二つ目は、「何度も何度も個人心理学は、『共同体感覚』と『勇気』という標語を示さなければならない」。
『子どもの教育』という本の中で、アドラーは「共同体感覚」と「勇気」の二つを車の両輪のように語っています。共同体感覚に欠けている人は、一方では勇気が欠如している。勇気がないからこそ人の足を引っ張る。だから自分の勇気づけができていると、人に対しても貢献できるんだと捉えるわけですね」
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