死ぬかと思った。科学者が「寒いのに」熱中症でぶっ倒れた理由

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先日掲載の「死に至る暑さ。現役科学者はどんな装備で熱中症を防いでいるのか」で、タイトル通りに熱中症予防法を伝授してくださった現役科学者のくられさんですが…、なんと先日、ご自身が熱中症で意識を失い昏倒してしまったとのこと。一体何が起こったというのでしょうか。くられさんが無料メルマガ『アリエナイ科学メルマ』でその一部始終を明かしています。

最強ミント液 キワミ冷感スプレー

今回は、かつて天才的発明をしたと思い込んだ男が自業自得の目に遭う話である…。

ミント系シャンプーがあるじゃないですか。洗い上がりには頭が涼しいくらいの清涼感。さらに近年、薬局なんかにも冷感ミストみたいなスプレーやボディタオルが売られており、スプレーしたり体をふくだけでミントミントしてひんやり~する。

このメカニズムは簡単で、メントールを液体に溶かしてあるだけです。メントールは薬局などでも固体を購入することができますし、ネット通販でも売られています。

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メントールは名前の通りアルコールなので水に溶けるのですが、非常に溶けにくく、時間がかかります。これをなんとか解決できんもんかと考えました。

エタノールを加熱して、そこに粉末にしたメントールをドバドバ投入。1滴ほど食器用洗剤を入れ、希釈用の水で混ぜて強引に思いっきり振り混ぜると、ごり押しで白濁した冷感液キワミ仕様の出来上がり。今名付けました。

これを指先に少し付けたところ、もはやサムイを通り越してかじかむレベル

これは勝ったな…ということで、頭から被り炎天下に出たところ、即座に猛烈な熱波に襲われるも、一切の熱さを感じない。むしろ寒い。というわけで帽子も被らなくてこれOKでは?となぜか強烈な勘違いをし(既に熱さでバグっている)そのまま灼熱の炎天下になんの対策もなくお出かけしたわけです。

その日は銀行に新規口座を作るために行く予定だったので、銀行に揚々と到着。しかし何かがおかしい。

銀行の入り口がうねうね動いているのである。いや、銀行の自動ドアはこんなコンブみたいな素材ではないはず。おかしいのは自分の脳だ。

クーラーの効いた銀行に入って気がついた。何をしに来たんだっけ?そしておもむろに職員さんに「あのぉすみません、自分はなにをしに来たのでしょう?」などと心の底から意味不明な質問をしている。ヤバい。完全に壊れた人の入店で顔が引きつっていたと思うが、そのまま意識を失って昏倒

気がつけば頭に保冷剤をのせられ扇風機の前で冷やされているではないですか。

ははーん、これは噂の熱中症か。なんで?こんなに寒いのに。

盛大にバグっている上に、身元の確認をされる。しかし意識は取り戻したものの、今度は字がかけなくなっていることが判明。それどころか住所も言えない思い出せない。そもそも数字さえ書けなくなっている。「あれ?4ってどういう方向で書けばいいんだっけ…??」みたいな、脳が完全に機能を喪失しているのが露骨でそのあたりから凄まじい恐怖が襲ってきて、もらった冷たいドリンクをガブのみして、保冷剤を脇に挟み、水をあたまからかけて扇風機で強制冷却していたら、多少はマシになってきた。

銀行員さんには本当に迷惑をかけたと思う。穴があったら埋めて欲しい。

さて、この冷たく感じるのは皮膚細胞など多くの細胞表面に存在する温度感受性TRPチャネルと言われるイオンチャネルの働きによるものです。例えば熱が加わると、熱が加わったことで細胞が壊れたり炎症物質がでてそれを感受して「熱い」とか「冷たい」と神経に連絡をするための伝達系が、このTRPチャネル。有名なのはTRPV1レセプターで熱さを感じる受容体ですが、カプサイシンが来ると熱と勘違いして温熱信号を送るので熱く感じるわけです。実際にトウガラシが熱いわけではありません。冷感ではメントールがTRPM8にハマることが知られていて、トウガラシが熱を偽装するのと同じくメントールは冷感を偽装するのです。

要するに、冷たいと感じているだけで冷たくなっているわけではないのです!!!
以上!! 解散!!

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シリーズ15万部以上の不謹慎理系書「アリエナイ理科ノ教科書」著者。別名義で「本当にコワい? 食べものの正体」「薬局で買うべき薬、買ってはいけない薬 」などを上梓。学術誌から成人誌面という極めて広い媒体で連載多数。

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【著者】 くられ 【発行周期】 週刊

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