詰んだ日本。千葉の大停電で判った衰退の一途を辿る島国の行く末

 

2011年の東日本大震災と原発事故を受けて「発送電分離」という考え方が流行しました。つまり発電については自由競争にして、再生エネルギー化を進めたり、原発事故補償などである発電会社が破綻しても、地域の送電を行う会社は安定して健全経営ができるように分離するという考え方です。

そこで2016年に「東京電力ホールディングス」の下に、一般送配電事業会社として「東京電力パワーグリッド」という企業が誕生したのです。今回、広域かつ長期間の停電を起こししかも現状把握の能力のなさを露呈したのはこの会社でした。

どうしてかというと、この発送電分離により、配電会社には「安定的な収益」を義務付けられたからです。設立目的の中には「原発事故後の電力ニーズ抑制トレンドが継続する」ことを前提に、コストを毎年平準化して健全経営を目指すという目的が掲げられています。

この「毎年平準化」というのが問題です。つまり、脆弱な部分があっても集中工事はできず、毎年少しずつしか改善はできないし、また大きな災害に対して緊急性のある対応がいつでもできるような予備費や予備の人員は相当にカットされていたのだと思われます。

勿論、実際の修復工事は関電工さんなどの下請けに任されるわけですが、発送電分離により、そのコストは絞られこそすれ、収益が実務の部分に回されたわけではないと思います。

とにかく、今回の対応の遅れについては「発送電分離の失敗」ということは言えると思います。

今回は問題になりませんでしたが、今後、水道の民営化が進んだ場合はどうでしょうか。民営化において、例えばですが今回のように停電で水が止まるというような問題については、恐らくは受益者負担ということになるのは間違い無いと思います。問題は、今回の風台風では発生しませんでしたが、昨年の岡山県倉敷市真備町のように、深刻な被災をした場合に民営化された水道事業が再建できるのか」は難しいテーマです。

衰退途上国特有の難しい問題として、「人命優先という先進国型の考え方が反対に人命を救えないというパラドックスを生んでいるという問題があると思います。

例えば、東京電力パワーグリッドは、停電の長引いた地域の公共機関などに電源車を派遣しました。ですが、技師と管理者の2人セットでないと起動できないというルールがあり、電源車が来たが動かせないという問題を生んだようです。

この例がどこまで適切かは検証が必要ですが、とにかく人命を守るためのルールが杓子定規となり人命を救助するための緊急避難的な行動を禁じてしまうというパラドックスについては検証が必要と思います。

それにしても、アクアラインで30分も走れば着く川崎市では、電気も水道も問題ない日常が続いている中で、房総半島側では大変な困難が続いていたというのも象徴的です。

日本の衰退は、今後このような「まだらな形で進んでいく、そのことを象徴しているからです。

超高齢化も、ポスト高齢化としての廃墟化にしても、各国出身者による外国人コミュニティも、そして超富裕層の好んで住む地区も、恐らくバラバラにまだらになっていくのだと思います。

そんな中で、千葉県というのは東京通勤圏である北西部と、房総半島南部、九十九里と全く違う性格のコミュニティを抱えている特殊な県だということができます。同じような条件を抱えている兵庫県などともに「都市地域と衰退地域を一体化して衰退スピードを抑制する仕組み」のようなものを考える必要がありそうです。

そうした危機意識という点で森田知事には、特に何のアイディアも、意欲も見えないわけで、それが今回の被災で露呈したのだと思います。

image by: wothan / Shutterstock.com

冷泉彰彦この著者の記事一覧

東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 冷泉彰彦のプリンストン通信 』

【著者】 冷泉彰彦 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 第1~第4火曜日発行予定

print
いま読まれてます

  • 詰んだ日本。千葉の大停電で判った衰退の一途を辿る島国の行く末
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け