すべては野望を成し遂げるため。織田信長「大減税」政策に学べ

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近年覆されつつあるとは言え、織田信長といえば「暴君」というイメージで語られがちですが、「税制」や「物流」の面ではかなりの名君ぶりを発揮していたようです。元国税調査官で作家の大村大次郎さんは今回、自身のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』で、信長が戦国時代に強敵たちを圧倒できた秘訣を紹介しています。

※本記事は有料メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』2019年10月1日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール大村大次郎おおむらおおじろう
大阪府出身。10年間の国税局勤務の後、経理事務所などを経て経営コンサルタント、フリーライターに。主な著書に「あらゆる領収書は経費で落とせる」(中央公論新社)「悪の会計学」(双葉社)がある。

信長の大減税政策

今回はちょっと毛色を変えて、「織田信長と税金」の話です。あまり語られることはありませんが、実は、信長は領民に対して「大減税」を施しているのです。

信長というと、強権的で高圧的な人というイメージが強いので、「領国統治も過酷なものだったのではないか」「信長の天下になれば、領民は重い負担を強いられたのではないか」と思われがちです。しかし意外に思われるかもしれませんが、信長というのは、庶民に対しては非常に善政を行なったといえます。それはよく考えれば当然のことだともいえます。

信長は常に周囲の勢力と戦いながら版図を急激に広げていきました。それは自国領が安定していなければできないことです。自国領で一揆などが多発していれば、うかうか他国と戦ったりはできません。領民の支持を得られなければ、領民に抵抗されたり逃亡されたりして、スムーズな領土拡大ができないのです。

逆に領民が潤えば人口が増え、領内が発展すれば税収も増えます。それは国力増強につながります。信長が天下統一事業を急速に進められたのは、自国の統治が他の大名に比べてうまくいっていたからに他ならないのです。

信長は税のシステムを簡略にして、中間搾取を極力減らし農民の負担を大幅に軽減しました。戦国時代の農民の税負担というのは、けっこう大きいものがありました。室町時代後半から戦国時代にかけての年貢は、複雑な仕組みとなっていました。

当時、日本の農地の大部分は荘園となっていましたが、本来、荘園というのは荘園領主が持ち主です。荘園領主というのは、自分の領地から遠く離れて住んでいることが多く、実際の管理は荘官や地頭に任されていました。そのうち荘官や地頭の力が強くなり彼らが実質的な領主になっていったのです。

そうなると、どういうことが起きるでしょうか?本来の荘園領と、荘官や地頭が「二重」に税を取るような事態になるのです。「二重」とまではいかずとも、税の仕組みが複雑になり農民は余計な税負担を強いられることが多々あったのです。つまり、中間搾取が増えていったのです。

これは、国家体制にも似たようなことがいえます。室町幕府は、各地に守護を置いていました。守護というのは、本来、中央政府から任命された一役人にすぎませんでした。それが、中央政府が弱体化すると力をつけていき、実質的にその地域を治めるようになっていったのです。それが守護大名と言われるものです。さらにその守護大名の力が弱くなって、その地位を奪うものがでてきます。戦国大名の出現です。

これも、農民にとって負担が増えることになりました。農民は荘官に年貢を払うだけでなく、守護にも「段銭」という形で税を取られるようになったのです。また新興勢力である「加地子名主」にも、事実上の年貢を納めなくてはならなくなっていました。「加地子名主」というのは、もともとは農民だった者が力をつけて地主的な存在になったもののことです。

このように戦国時代では社会のシステムが崩壊し力の強いものがどんどん収奪するようになっていたのです。戦国大名は、この社会システムを再構築する必要に迫られていました。今のままでは、農民は幾重にも税を払わなければならないため民力を圧迫してしまいます。また大名の年貢の取り分も非常に低くなっています。「分散した年貢徴収システムを一括にまとめること」、それが戦国大名にとっての大命題だったのです。

しかし多くの戦国大名はそれができませんでした。たとえば、武田信玄は、寺社や国人などの徴税権をそのままにしておいたので、自身の取り分が少なくなり農民に過酷な税を課すことになりました。それは農民の大量流出などを招き領内経済を疲弊させました。

信長はそうではありませんでした。自分の支配地からは、極力、中間搾取を排除し税体系を再構築することに成功しているのです。

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