1兆以上の金が吹っ飛ぶ。WeWork投資で孫正義氏が見る「痛い目」

 

今週になって、GAFAの分割を訴えていて有名なScott Galloway教授が、At What Point Does Malfeasance Become Fraud?’: NYU Biz-School Professor Scott Galloway on WeWork (New York Magazine)というWeWorkだけでなく、ソフトバンクも厳しく批判した記事を発表して注目を集めました。そして、さらに追い討ちをかけるように、「MDMA(エクスタシーと呼ばれる麻薬の別名)」という記事で、ソフトバンクによる投資手法がいかに無謀なものかを分かりやすく説明しています(下のグラフは、投資額が多い投資ほど失敗に終わっていることを示しています)。

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Galloway教授によると、上場に失敗したWeWorkは、6ヶ月も経たないうちに資金がショートするため、大株主であるソフトバンクは、「救済のために追加投資するかそのまま倒産させるか」という究極の選択をしなければならない状況に追い込まれているそうです。

ビジョンファンドはトータルで$10.5billionをWeWorkに投資していますが、その価値は既に3分の1以下になっていることは明確で、それだけでも大変な損失ですが、WeWorkが倒産すれば、日本円にして1兆円以上のお金が吹っ飛ぶことになります。

Theranosのケースでも書きましたが、天才起業家と詐欺師の違いは本当に紙一重なのです。CEOのAdam Neumannは、ソフトバンクをその気にさせて$47billionの企業価値で投資させることには成功したものの、上場という高いハードルはクリアすることが出来ず(市場が健全な証拠です)、一気に化けの皮が剥がれてしまったのです。

私は1年半ほど前に、「資金さえショートさせずにModel 3の量産を開始出来ればTeslaは素晴らしい会社になる」と予想しました。Elon Muskは債権などを上手に活用して危機を乗り越えることに成功しましたが、あそこで資金ショートを起こして会社を倒産させていたら詐欺師扱いされていたと思います。

この件を受けて、「上場がしにくくなった」と指摘している評論家もいますが、私は、これでバブル気味だったIPO市場が落ち着きを取り戻すのは、良いことだと感じています。赤字を垂れ流すメガユニコーン企業が、知名度だけで上場するのは、必ずしも市場全体にとって良いことではないのです。

ちなみに、Finantial Timesの記事によると、ビジョンファンドは、外部投資家に対しては年利7%の配当を約束した優先株を発行しているため、現在は借金で配当を支払っているそうです(SoftBank’s Son uses rare structure for $93bn tech fund)。

ソフトバンクは、この配当金を餌にサウジアラビアから莫大なお金を集めたのでしょうが、これはとてもリスキーな資金集めの方法で、万が一投資がうまく行かないと、(ビジョンファンドの)普通株を持つソフトバンクばかりが損失を被ることになります。

image by: Linda Parton / Shutterstock.com

※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2019年10月8日号の一部抜粋です。

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