五輪や世界選手権で金メダルを取り続けている柔道の谷亮子選手などはその代表的な例だと思うが、私は以前、こんなやりとりを目にしたことがあった。2000年のシドニー五輪が始まる直前のことである。彼女は自転車競技で連続の金メダルを取ったある外国人選手とテレビ番組で共演していた。その時、あなたが五輪に出る目的は何かと尋ねられた谷(当時は田村)選手は「もちろん金メダルです」と答えた。五輪選手はその答えを受けて「それじゃダメですね」と述べ、こう後を続けたのである。
「私は金メダルを取ることを“目的”にしたことは一度もなく、金メダルを取ることは、祖国の子供たちに夢と希望を与えるための“手段”にしかすぎない。もっと多くの子供たちに夢と希望を持ってもらうために、私には絶対に金メダルが必要なの。あなたのように金メダル獲得を目的にすれば、取ったとしてもそこで終わってしまうでしょう」
この後、谷選手はシドニー五輪で自身初となる金メダルを獲得し、4年後のアテネ五輪でも、見事、2大会連続となる金メダルを獲得した。谷選手にあの時、どんな心境の変化があったのかは分からないが、人は明確な理由に基づいて行動していくと、必ずよい成果を出すことができる。それが「セルフモチベーション」や「自家発電能力」といわれるものである。
日本人はよく、テンションが高い人のことを「モチベーションが高い」と捉えてしまいがちだが、モチベーションは明るさや元気さのことを指すのではない。一見暗い性格で、地味な雰囲気の人でも、やるべきことが明確で、その目標に向かってこつこつこつこつ努力を続ける人は、偉業を成し遂げることができる。
大切なのは、いまの自分の実力に合わせた目標を設定し、絶えず新鮮なモチベーションをつくり出すことである。
『致知』2010年9月号「致知随想」
image by: Shutterstock.com