多くの経営者が、「企業の成長力や競争力を支えているのは人材」と口にしながら、実際には社員・アルバイトの教育をないがしろにしているケースがままあるものです。今回の無料メルマガ『飲食店経営塾』では飲食店コンサルタントの中西敏弘さんが、人材育成においては仕事の目的・ゴール・コツを教えていくことが重要と論じでいます。
あなたの会社は「ザルで水をすくっている」状態になっていないか?
最近、入社してきたスタッフA君。社長との面談を終え、入社も決まりました。そして、配属先の店舗も決まり、その前に、社長と話す時間があったそうです。
A君は、これまでも飲食業で働いていたので、できるだけ早く会社に貢献したいなあと思い、積極的に社長に質問したそうです。
「明日から配属になりますが、何か課題はありますか?」
すると、社長からは、
「とにかく、店の仕事に慣れて!」
とのみ、言われたそうです。A君は、頑張り屋だけに、この社長の言葉にがっかりしたようです(本当はこの「慣れて」に深い意味があるのかもしれませんが…)。実際に入店しても、その店のスタッフから「具体的に何か教えてもらう」ということもなく、ただ、「見て盗んで!」的な雰囲気だそうです。
この例は、驚かれる人もいるかもしれませんが、「実話」。まだまだ、昔の職人さんの多い会社のようで、人に「教える」という風土がないようで、「昭和の飲食店」のように仕事は「目で盗んで!」というのに、誰も違和感を抱いていないようです。
どこの飲食店も人不足で悩んでいる時代。1人でも多くの社員に応募してもらいたいと思っている会社は多いと思いますが、その前に、社員・アルバイトの「受け入れ態勢」は整っているでしょうか?
もし、冒頭の例のような飲食店のような受け入れ態勢だと、せっかく新しい人が入ってきても、すぐ辞めてしまうというのは想像できますよね?特に、今の若い人に仕事を教えるのにあたって、「慣れて」とか「見て覚えて」というような教え方(?)では、普通の人は辞めてしまいます。
「こういった手順で、このように仕事を覚えてもらいます」
というカリキュラムがあり、各仕事に関しても、その仕事の目的は〇〇。ゴールの状態は△△。そして、この仕事のコツ・ポイントは××、というように、仕事を習得しやすいような仕組み(マニュアルでなくてOK)がないと、「この会社は何も教えてくれない!」とすぐに辞めてしまうでしょう。
「すぐに人が辞めてしまうんです!」
とたまに相談を受けることがありますが、その人の主旨は、「最近の若い子は礼儀がなっていないとか、常識がない」と思っているようで、それを聞きたいと思っているようですが、それより、自社の受け入れ態勢を見直した方がいいと思います。
さらには、マニュアルを作って、ただ、そのマニュアルをやらせるだけでも、仕事は上手くなりません。先述しましたが、仕事の目的、ゴールが分かっていて、仕事を上手く遂行するためのコツ・ポイントを、「教える側」が分かっていないと仕事を上手く習得させることはできないでしょう。
なぜ、こんなに「教える」ことに僕がこだわるかと言えば、正しく仕事を覚えてもらわないと、成果が出ないから。成果がでないと、達成感もやりがいも感じることはできません。すると、仕事をしていても楽しくないので、次の仕事を探すことになってしまうからです。
人不足で人財採用にばかり目がいきがちですが、採用後の育成プログラム(社員・アルバイトとも)と評価制度の整備。さらには、現スタッフの「教える」スキルを向上させることにも力を入れていくべきでしょう。でないと、「ザルで水をすくっている」という状態になりますから。
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