韓国に切迫感なし。東アジアに予期せぬ事態を引き起こす文政権

shima20191029
 

10月24日、日韓は「厳しい両国関係の修復」への見解を一致させたと報じられていますが、そもそもこれほどまでに日韓関係がこじれてしまったのは、どこに原因があるのでしょうか。ジャーナリストとして数々のメディアで活躍中の嶌信彦さんは今回、自身の無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』で、日米韓が均衡を崩した要因と、その隙を狙う中国・ロシア・北朝鮮の動向を考察しています。

広がる日韓関係悪化の波紋

日本と韓国の関係悪化が、アジア情勢全体の波乱につながりはじめた。アメリカは日本・韓国の早急な和解を求める一方、中国やロシアはアジア情勢の変動を自国に有利な方向につなげようと水面下で動いている

事の発端は大戦中に日本が韓国人を日本の鉱山や道路建設などに徴用した事件について、最近、韓国の最高裁が違憲判決を下し、日本企業は賠償すべきだと命じたことに始まった。これに対し、日本側は「1965年の日韓請求権協定で全面的に解決しており、今後は徴用工問題を両国の間に持ち出さないと約束したはずだ」と抗議した。しかし文在寅・韓国大統領は「司法の判断に行政は口を挟まない」と述べ、事実上、韓国最高裁の判断を尊重する姿勢を打ち出した。

このため、日本側は「国際的な司法の約束を無視したものだ」と主張。さらに韓国を貿易上で優遇措置を取るホワイト国から除外すると発表した。日本は世界の27カ国をホワイト国に指定し、輸出入の規制を大幅にゆるめて優遇しているが、そこから韓国をはずしたのである。

すると今度は韓国が日韓の軍事情報をお互いに交換し、防衛秘密を共有する「日韓軍事情報包括保護協定GSOMIA)」を突然破棄すると宣言した。日韓の貿易問題を安全保障問題へと飛び火させたのである。この決定には、「日米韓3カ国の安全保障政策の連携深化を進めたい」と会談していたアメリカのエスパー国防長官とポンペオ国務長官は「アメリカは他分野での日韓対立に関係なく防衛・安保に関する連携は今後さらに深めるべきだ」と説得していただけに韓国の決定には失望した」と不満を露わにし、「文在寅政権は我々が北東アジアで直面する深刻な安全保障上の脅威について大きな誤解をしている」と批判した。

日米が安全保障問題で最も懸念するのは北朝鮮のミサイル発射だ。発射直後は日本側の地上レーダーだけでミサイルの動きを把握でき、日本寄りの日本海や太平洋に着水した時は韓国のレーダーでは捉えきれない。全体像を掴むには日米韓の情報協力で迎撃態勢を取れるとされてきた。

すでに今年夏にロシア軍機が領空侵犯した事件が発生しているし、中国も日韓の対立に乗じてインド太平洋地域にさらに揺さぶりをかけてくる可能性も強い。それだけに文在寅政権は日米が思うほど北朝鮮や中国ロシアなどの脅威戦略について切迫感を持っていないのではないかとみてしまうのだ。実際、文政権は南北朝鮮の融和に力を入れており、日米韓、特に日本との結束に熱心ではない。文政権の登場は今後もアジアに予期せぬ事態を引き起こしそうだ。

(財界 2019年10月8日 第504回)

※ 補足情報

24日付けのロイタは安倍首相が同日付の韓国の李洛淵首相との会談で、日韓関係が「厳しい状況にありこのまま放置してはいけないとの認識を示し、さらに「北朝鮮問題をはじめ日韓・日韓米の連携は極めて重要」だと述べ、「日韓両国はお互いにとって重要な隣国」「国と国との約束を順守することで、日韓関係を健全な関係に戻していくきっかけを作ってもらいたい」と要請したと報じました。

また、韓国外務省も同日、日韓両首相が日韓関係を困難な状態で放置すべきではないとの見解を共有したと明らかにし、韓国の趙世暎(チョ・セヨン)外務次官によると、両首相は米国とともに北朝鮮問題で協力することが重要との認識で一致した。

聯合ニュースが韓国の文大統領は安倍首相宛の親書で、二国間の関係を複雑化させている問題を解決するよう促したとも報じています。

image by: 首相官邸

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ジャーナリスト。1942年生。慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、日銀、財界、ワシントン特派員等を経て1987年からフリー。TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務め、TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」に27年間出演。現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」出演。近著にウズベキスタン抑留者のナボイ劇場建設秘話を描いたノンフィクション「伝説となった日本兵捕虜-ソ連四大劇場を建てた男たち-」を角川書店より発売。著書多数。NPO「日本ニュース時事能力検定協会」理事、NPO「日本ウズベキスタン協会」 会長。先進国サミットの取材は約30回に及ぶ。

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【著者】 嶌信彦 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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