楽天の本格参入延期にNTTドコモとKDDIの両社長がコメント――「仮想化と実際のネットワークを作りは別問題
新聞などの一般メディアでは「10月に楽天モバイルが本格的に参入し、激しい料金競争が起きる」と書き立てていたが、結局、楽天は「無料サポータープログラム」というかたちでのスタートしかできず、料金競争はお預けになったかたちだ。
しかし、ほとんどの業界関係者が「楽天モバイルがすぐに既存3社と肩を並べるネットワーク品質を構築するのは難しく、料金競争など起きるわけもない」と冷ややかに見ていたのは間違いない。
楽天のスモールスタートをNTTドコモとKDDIはどう見ていたのか。当然、本音は語ってはくれないが、今週、両社の決算会見があったので、吉澤和弘社長と高橋誠社長にぶつけてみた。
吉澤和弘社長は「私自身は無料サポータープログラムは体験していないが、いろいろな報道などを見る限りは、エリア構築が十分ではないのかなという印象を受ける。キャリアとしての基本中の基本はつながるということだと思う。サービスが本格的に立ち上がる時期がいつになるか分からないが、本格スタートに向けて立ち上がってくると考えてる」とした。
ローミングパートナーである高橋誠社長はちょっと手厳しい。「今年の春先からずっと言っていることではあるが、仮想化ネットワークと、実際にネットワークを作ることは別問題。基地局の整備はそう簡単なことではない。10月1日に基地局が揃うとは思っていなかったので、『そうだろうなぁ』という感覚。ただ、話を聞く限りは、かなりの体制でやっているようで、いま1000から2000の間だろうが、これから2000、3000と基地局の数はこれから増えてくるだろう。私たちとしては来年度に向けて、引き続き気を引き締めてやっていきたい」とした。
NTTドコモとしては、楽天がMVNOをやりながら、MNOを本格展開する立場を快く思っていないのは相変わらずだ。吉澤社長は「現状、無料サービスだが、キャリアとしてのサービスを開始した。電波という資源を配分され、それを使って自分たちがネットワークを作っていく訳だ。基本的にはキャリアは配分された周波数を有効に使い、そこにお客さまを収容するべき。ネットワークの構築や周波数を有効利用する技術の導入に向けた努力をしないで、MVNOを提供し続けるのはいかがなものか」
「そうは言いつつも、MNOとしてやっていくからには、いつかはMVNOとしての立場を解消するべきだと思う。今後、MVNOサービスをどうしていくのか、話し合いを進めるつもりだ。この問題は総務省にも投げている。ただし、これは楽天モバイルに限ったことではない。KDDIの完全子会社であるビッグローブや、ソフトバンクの子会社であるLINEモバイルはドコモ回線を使ったMVNOサービスを今でも提供している。これらの事例も含めて『どうするべきか』ということだ」
吉澤社長は、楽天のMNOを開始しながらMVNOを展開する立場に苦言を呈すが、実際にアクションを起こしてMVNOを強制的に巻き取るかといえば、そんなことはなさそうだ。楽天モバイルは現在、220万を超える顧客基盤を持つ、NTTドコモにとっても重要な顧客であることは間違いない。この回線数が一気に減るのはNTTドコモにとっても困ってしまうわけで、「声は上げるが、何もしない」というのが現実解なのではないだろうか。
NTTドコモとしては、本来、楽天モバイルは同社の最大のMVNOになることで、KDDIとソフトバンクとの「サブブランド対抗」という位置付けにできたのかもしれない。それが裏切られ、KDDIにローミング契約をうまいこと持っていかれたこともあり、NTTドコモとしては楽天とKDDIの関係を面白くないと思っているのかもしれない。
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