外国人にはわかりづらい現行の年金制度
新米 「何か具体例を教えてくださいよ」
所長 「ん~、単純に社会保険だけの相談というのではなく、ビザとの関係などが絡むからややこしい案件が多いといえば多いね。でも、今の仕事をやめた後の年金はどうなるのか?っていうのは最大の関心事のようだね」
新米 「脱退一時金のことですね」
所長 「そうだね。まずそれがもらえる権利があるかだね。でも、日本を出ないと請求できないことを知らない人は多かったね」
新米 「うーーん、そうかもしれないですね」
所長 「こんなケースがあったよ。20年も日本で働いている人が来年母国に帰国するので、年金について知りたいと窓口に来られた。ある程度溜まっているだろうという期待があったが、給与明細を見せてもらっても、社会保険料が控除されていない。結局無年金だってことがわかったんだ」
新米 「え?20年も日本で働いていたのに無年金?それはショックでしょうね」
所長 「そうだろうなー。きっといくらもらえるんだろう?と思って窓口に来たのに、0円だなんてね。罪な制度だと思ったよ」
新米 「日本は皆年金・皆保険なのに、そんなこともあるんですね」
所長 「今の勤務先は正社員だけど、1日3時間の短時間勤務。社会保険の加入義務はない。ここは、給与明細に社会保険料が記載されていなくて正解。他にも過去の給与明細をずっと見せてもらったが、ある時期少しは加入できる期間もあったようだけど、合計してもほんの数ヵ月のようだった。時給は高かったから生活はできていたんだよね」
新米 「そうなんですか、どうしようもないんですか」
所長 「国民年金をかけていたことはあるか?と聞くと『たぶんある』という返事があった。そこで、源泉徴収票も持って来られていたので、見せてもらったが、やはり支払った形跡はないんだ」
新米 「うーーん」
所長 「過去に何かを払った記憶があるというので、聞き取りをしてみたら、国民健康保険らしいんだよね。やはり年金はなかった…」
新米 「そうか、健康保険は払っていたんですね」
所長 「ある期間だけなのでずっとではないにせよ、これだけ長い間日本にいたら病院にも行くことはあるだろうしね。『17歳の時に1日12時間程働いていた。あの3年間が一番沢山働いたときだ』『その時の会社はもうなくなったが、社長とは今でも連絡は取れる』ということで、そこの期間分は元社長さんに問い合わせてもらうことにしたよ」
新米 「といっても、10年には足りませんよね」
所長 「うん、日本の期間だけではもらえないね。そこは、社会保険協定のある国だから、帰国した後に母国分とつなげば良いかと思ってる。また、母国の老齢年金及び遺族年金の支給要件には最低加入年数がないため、フランス法令に基づく保険期間さえあれば、日本の年金加入期間の通算を行わなくてもフランス年金の受給権は発生するんだ」
新米 「あ、10年なくても協定がある国だと母国で加入すれば救済措置はとれるってことなんですね。フランスの方で良かった~」
所長 「うん、ただね、国民年金は、20~60歳が原則の加入期間だろ?だから、20歳前の期間は、合算対象期間として期間のカウントは入っても国民年金としての金額のカウントはされないんだよね…」
新米 「金額のカウントが入らない…。合算対象期間ってそうでしたっけ?」
所長 「うん、勤務先で社会保険に加入していない=自分で国民年金、国民健康保険に加入しなければならないってことが周知できていないっていうのもとても大きな問題だと思ったよ。それが20年も続いていたら、一生に大きく影響するだろ。これから人生100年時代っていうんだから、これからのことにはもっと敏感になっていかないとね」
脱退一時金とは(日本年金機構HPより)
国民年金の第1号被保険者としての保険料納付済期間が6ヵ月以上あり、年金を受けることができない、日本国籍を有していない外国人の方が帰国した場合は、保険料を納めた期間に応じて、脱退一時金が支給されます。
日本に住所を有しなくなった日から2年以内に請求してください。
● 日本から出国される外国人のみなさまへ
● 国民年金に加入した外国人が帰国することになりました。このような場合、何か保障はありますか
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