トランプ政権の動向が世界秩序を揺さぶる中、韓国は米軍撤退という「最悪のシナリオ」を真剣に想定し始めています。中東情勢の長期化や米国内の政治疲弊が進めば、3〜4年以内に朝鮮半島から米軍が引き揚げる可能性もゼロではありません。そのとき韓国はどう生き残るのか。今回のメルマガ『キムチパワー』では、現地で教育関係の仕事に従事する日本人著者が、エネルギー主権の強化から北朝鮮との「弟の戦略」まで、韓国が今取るべき戦略的自律への道筋を論じます。
米軍撤退にも備えるべし
国際関係において歴史を知ることは、単なる知的活動ではなく国家生存のための必須条件だ。韓国の1世紀前の状況を現在と単純に比較することは適切ではないかもしれない。今日の韓国はかつての韓国ではなく今私たちが考えるべきは現在の韓国だからだ。
この1か月、毎朝ニュースに接するたびに、数多くの疑問が頭をよぎる。私たちが見ているアメリカは「戦争を終わらせるための終わりなき戦争」という悪循環に陥っているのだろうか。米国経済が原油高の打撃を受けている中、世界市場、とりわけ韓国はどのような影響を受けるのか。米国は北朝鮮問題をどう扱うのか。
もちろんドナルド・トランプ大統領はイランで成果を上げたと宣言し引き下がることもあり得る。それが最も合理的な選択だろう。しかし実際にそうなる可能性は低く、これは私の希望的観測に過ぎない。それでも様々な可能性を想像することは必要だ。私たちの資源は限られており外部からの圧力は増しているからだ。
■「米軍撤退」想定すべきシナリオ
米国の世界的な関与が不透明になる中、韓国は米国の安全保障の保証が縮小する未来に備えなければならない。第1のシナリオは、中東紛争が長期化し政治的疲弊につながる場合だ。有権者や政界がトランプの行動に不満を募らせれば、彼は韓国を含む世界各地に展開する米軍を本国へ撤退させる決断を下すかもしれない。
もう1つの可能性は、1968年に英国がアラビア半島から撤退した際の状況に似ている。当時英国が撤退すると、現地の民族は自ら安全保障の空白を埋めなければならず今日のUAEとして知られる連邦が誕生し一部の国は独立国家として残った。
もちろん今日の米国は1968年の英国とは異なる。しかし筆者は現在のような流れが続けば、3〜4年以内に米国が朝鮮半島から軍を撤退させる可能性も排除できないと考える。その後の状況は結局、私たちが引き受けなければならない。私の見立てが間違っていることを心から願う。
昨日まで想像しがたく今日は可能性が低いように見えても、近い将来には十分に現実となりうることがある。それが東アジアからの米軍撤退だ。1990年代のソ連崩壊に匹敵するほどの大事件となり、地域の安全保障環境を再編し1950年代に近いレベルの不安定をもたらす可能性もある。北朝鮮との平和協定締結は安全保障環境を根本から変えるだろう。何より北朝鮮と韓国を含む複数の国々の軍事的負担を段階的に軽減する可能性がある。
一部では既存の安全保障体制の堅固さを理由に、こうした変化が状況を不安定化させると主張する。私はむしろその逆だと見る。世界各地を見渡せば、既存の安全保障構造はすでに揺らいでいる。欧州諸国はNATOにおける米国の役割への信頼を失い、中東問題とも距離を置いている。中国でさえ米中首脳会談が実際に開かれるか確信が持てないまま、様子見の姿勢をとっている。
北朝鮮問題に戻ろう。南北が会談する際「対等な立場で話し合おう」とか、経済的優位を背景に韓国が北朝鮮に説教しようとする傾向がある。より柔軟で洗練されたアプローチとして「兄弟として話し合おう」という方式を提案する向きもある。そして韓国が「兄」の役割を担うべきだという意見もある。
しかし私はその逆を提案する。「弟の戦略(younger brother strategy)」だ。韓国がより謙虚な姿勢をとり、自らを「弟」に、北朝鮮を「兄」と位置づける戦略である。これは北朝鮮の防衛的な態度を和らげるためのものだ。儒教文化が指導者たちの間で機能するときどのような反応が生まれるか想像してみてほしい。
■戦略的自律性を高めるために
究極的には私たちは米国の安全保障上の役割縮小に備え、戦略的自律性を高めなければならない。そこにはエネルギー安全保障とより柔軟な外交戦略が含まれる。韓国はすでに何をすべきかを知っており実際にそうしている。あとはその努力を倍増させるだけだ。その1つがエネルギー主権だ。再生可能エネルギーの拡大、効率改善、原子力の活用などを通じて石油依存度を下げることを意味する。
資源の供給元・サプライチェーン・市場を多様化することは、中堅国家が生存のために用いてきた実証済みの方法だ。実例は多い。現在英国は新築住宅すべてに太陽光パネルの設置を義務付けている。欧州もエネルギープロジェクト全体のスケジュールを見直し、目標時期を前倒ししている。一部の国はFTA交渉のペースを上げている。私たちもこうした取り組みをすべきだ。
あわせて韓国は国際社会でより積極的に声を上げなければならない。たとえ大国がその秩序を揺るがしているとしても。できることとできないことを慎重に見極め、関係当事者と交渉を重ねていく必要がある。例えばホルムズ海峡への派兵問題を、単に「米国の要請に応じた行動」と解釈してはならない。国際社会の一員として地域の平和と安定を促進するための行動として位置づけるべきだ。
私たちはすでに東アフリカのアデン湾で経験を積んでいる。もちろん海賊とテロリストやゲリラ勢力はまったく異なる相手だが。後退している誰かのためではなく、自ら嵐の中を航海する術を身につけたからこそそうすべきなのだ。【ここまで韓国日報 ユジン・リー成均館大学ガバナンス大学院教授コラムベース】
■米軍撤退は安定をもたらすのか
「米軍撤退が安定をもたらす可能性がある」という部分には一定の論拠があろう。まず現状の「安定」は、実は抑止による凍結状態に過ぎない。朝鮮半島の緊張は解消されておらず米軍の存在が北朝鮮の挑発を繰り返させる口実にもなっている。
撤退により北朝鮮の「体制存亡への脅威」認識が和らげば対話の空間が生まれる可能性はゼロではない。また韓国は既に世界有数の軍事力を持ち、GDPも北朝鮮の数十倍。自律的な防衛能力は十分にあるという見方もできる。米軍依存からの脱却がむしろ南北間の自主的な関係構築を促すという議論だ。
ただしこの楽観論にはちょっとした落とし穴がある。最大のリスクは中国だ。米軍撤退は中国の地域覇権拡大の好機となり得る。北朝鮮の行動が読みにくくなる点も懸念される。「脅威が去った」と見るか「好機が来た」と見るか、北朝鮮指導部の判断次第で状況は一変する。結論として現状の安全保障体制が「人工的な安定」である以上、撤退が安定をもたらすには、中国・北朝鮮・韓国の利害が一定程度収束する外交的地盤が先に必要で、現時点ではその条件が整っていないというのが正直な見立てではないだろうか。
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