【書評】日本史好き必見。歴史は暗記するな、7つのツボを抑えろ

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「歴女」という言葉が生まれてからだいぶ年数が経ちました。誕生のきっかけは「戦国無双」や「戦国BASARA」の人気からという説もあれば、大河ドラマに人気俳優やアイドルが出演するようになってからなど、様々な説があります。しかし、歴史に興味を持つことは良いこと。学生時代は暗記ばかりで好きになれなかったとしても、きちんとストーリー仕立てで覚えていくと、きっと歴史の楽しさもわかるかもしれませんね。そんな歴史に少しでも興味がある人のために、著者で編集長の柴田忠男さんが自らの無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の中で一冊の本をご紹介。実は7つのツボを押さえると、暗記しなくても日本史の流れがつかめるようになるという話をしてくれています。

偏屈BOOK案内:本郷和人『日本史のツボ』

61hgDmt3KGL日本史のツボ
本郷和人 著/文藝春秋

「○○を知れば日本史がわかる」と銘打った本。その○○とは、天皇、宗教、土地、軍事、地域、女性、経済の七つである。著者の本職は「大日本史料」の第五編という史料集を編纂することで、建長年間のことであれば日本一詳しい“たこつぼ”学者さん。日本史の流れを掴むとは、「ツボ」を押さえることだと考え、日本通史を七大テーマでまとめた。謙虚で丁寧な語り口が好感。

軍事がわからないと日本史はわからない。著者が「大東亜戦争」を「太平洋戦争」という、連合国側から見た呼称を用いるのは違和感があるが。戦後、軍事史の研究がなおざりにされた原因のひとつは、敗戦ショックで戦争=悪、軍事=悪という認識が日本国民のなかに刷り込まれたこと、もうひとつはイデオロギー的なもので、皇国史観の反動でマルクス主義的な唯物史観が勢いを持った。

軍隊=悪、自衛隊=悪という図式から、トータルな歴史科学としての軍事研究史はほとんど進まなかった。軍事とはその時代の政治、外交、経済、科学技術などと密接に結びついている。軍事を戦術、戦略、兵站の三つに分けると、それぞれは工学(技術)、政治学、経済学だといえる。戦略はまさに政治、外交に近接している。兵站(ロジスティック)は経済と密接に関係している。

その意味で常備軍は、財政上非常に重い負担となる。世界中で平時にはいかに常備軍を少なくするかに腐心している。しかし日本は、この兵站問題を歴史上ずっと軽視してきた。兵隊をいかに食わせて戦わせるかというテーマを真剣に考えたのは織田信長以降で、兵站の天才は秀吉である。だから、大量の軍勢を動員できたのだ。兵站を整えるには、それを支える経済力が必要になってくる。

つまり、軍事史とは戦闘の勝ち負けだけではなく、その背後にある政治、経済のあり方を学ぶことだ。「戦争に勝つためには何が必要か」といえば、敵を上回る(通説では3倍)戦力優れた装備、そして大義名分である。現実にどれくらい動員できたのか、応仁の乱はもちろん、関ヶ原の合戦、富士川の合戦、川中島などもおおいに水増しされている。史料を鵜呑みにしてはいけない。

戦争に勝つための第一条件は、敵を上回る兵力、第二に経済力+情報力、そして大義名分だ。何のために戦うのか、勝てば何が手に入り何を守れるか、これを兵にきちんと説明できないと、兵の士気が高まらない。そこで思想や文化といった要素が必要になる。戊辰戦争は薩長が仕掛けた「官軍VS.賊軍」というイデオロギー戦争だ。こう見ていくと、先の大戦で日本が負けたのは当然だ。

第一の兵力、第二の装備を調える国力で、アメリカのほうが圧倒的に強いのを分かっていながら、ゼロ戦や戦艦大和などの一点豪華主義で突破し、あとは奇襲などの戦術と、国民へのプロパガンダ=思想戦で乗り切ろうと考えたことにある。その思想戦に、皇国史観というかたちで歴史学も利用されてしまった。そもそも戦争に勝った、とはどういうことか。各論あるが著者はこう考えた。

「戦争を仕掛けた側が目的を達成できれば仕掛けた側の勝ち、達成できなかったら負け」。被害の多寡は問題でなく、最大の目的が達成されたかどうかで見るべきだという。よって、関ヶ原は東軍の勝ち、家康は論功行賞を行った。つまり戦後処理の段階で、既に徳川政権は確立していた。だから「1603年、家康が征夷大将軍に任命されたから、徳川幕府ができた」というのは間違いである。家康はとっくに天下人になっていたのだ。うわー、ナイスな考察!

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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